2025/7/12プレスリリース
Key Points
・日本人高齢者の除脂肪量指数(Fat-Free Mass Index:FFMI)の最適なカットオフ値は、男性<17.5 kg/m²、女性<14.4 kg/m²と算出された ・FFMIが上記のカットオフ値未満であることは、1年以内の転倒リスクの上昇と関連していた ・FFMIを低栄養診断過程に活用する有用性が期待できる |
研究の概要
研究の背景と目的
GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準において、低栄養の診断項目の一つである筋量減少の指標として、FFMIの活用が推奨されています。現行のカットオフ値は、欧米人を対象とした研究結果に基づき、男性<17 kg/m²、女性<15 kg/m²と定義されていますが、アジア人を対象とした妥当な基準値はこれまで明らかにされていませんでした。
本研究の目的は、日本人高齢患者を対象に、低筋量を評価するためのFFMIのカットオフ値を明らかにするとともに、その妥当性を検討するために、転倒との関連性について検討しました。
研究の方法
研究デザイン
記述的コホート研究
対象
国立長寿医療研究センターのロコモフレイル外来の初診患者696名(平均年齢76.1歳、女性65%)
期間
2016年3月〜2021年11月
評価項目
・体組成測定:FFMIはBIA法(InBody 770)を使用、四肢骨格筋指数(Appendicular Skeletal Muscle mass Index: ASMI)はDXA法(Lunar iDXA)を使用
・転倒情報:初診時から1年間での1回以上の転倒発生の有無について、郵送または電話での聞き取りを実施
統計解析
①DXAで測定したASMI低値(男性<7.0kg/m2、女性<5.4kg/m2)を外的基準としたFFMIのROC解析を行い、FFMIの最適なカットオフ値をYouden indexで算出
②求められたカットオフ値でのFFMI低値またはASMI低値と、1年間の転倒発生との関連をロジスティック回帰分析で検討し、予測力を比較(調整因子:年齢、性別、Barthel Index (BI) 100未満、併存疾患数)
主要な結果
・FFMIの最適なカットオフ値は、男性で17.5 kg/m²、女性で14.4 kg/m²と算出された(図1)
・ROC曲線の曲線下面積(AUC)は、男性で0.926、女性で0.927と高値であった(図1)
・上記のカットオフ値の感度は94.0%、特異度は91.2%、精度は88.6%であった
・FFMI低値の群は、1年以内の転倒リスクが有意に高く(OR 1.49, 95%CI 1.01–2.20, p=0.044)、一方でASMI低値では有意な関連は認められなかった(OR 1.04, 95%CI 0.70–1.53, p=0.860)(図2)
・特にBMI 24以上や、併存疾患数が4未満の群で、FFMI低下による転倒リスクが高かった
図1. ASMI低値に対するFFMIのROC解析

図2. FFMI低値またはASMI低値と1年間の転倒発生の関連 ロジスティック回帰分析

結論と意義
日本人高齢者においてFFMI<17.5 kg/m²(男性)、<14.4 kg/m²(女性)が筋量減少の指標となること、このカットオフ値を用いたFFMI低値が、その後1年間の転倒リスクと関連することが明らかとなりました。ASMIは四肢骨格筋量のみを含みますが、FFMIは体幹の筋肉量も含むため、全身のバランス能力が反映されやすいと考えられます。FFMIは、高価な測定機器を使わなくても、体脂肪計で算出することができ、ASMIに比べて安価かつ簡便に用いやすい指標です。FFMIを低栄養診断過程に活用する有用性が期待されます。
論文情報
掲載誌:Journal of Parenteral and Enteral Nutrition (JPEN) 論文タイトル:Fat-Free Mass Index cut-off values for reduced muscle mass in older community-dwelling adults in Japan: A descriptive cohort study 著者名:Sahoko Takagi, Keisuke Maeda, Shosuke Satake, Shuzo Miyahara, Yuria Ishida, Hiroyasu Akatsu, Hidenori Arai DOI:10.1002/jpen.2806 PubMed URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40641345/ |
著者紹介
高木 咲穂子(https://researchmap.jp/sahoko-t ) 2015年 京都女子大学家政学部食物栄養学科 卒業 2017年 名古屋大学大学院医学系研究科修士課程医科学専攻 修了 同年より 国立病院機構に入職 2023年より国立長寿医療研究センター栄養管理部で勤務 |
問い合わせ・取材申し込み先
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 栄養管理部 高木 咲穂子 TEL: 0562-46-2311(代表) E-mail: t.sahoko ![]() |