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プレスリリース

全国調査で判明した嚥下障害患者の栄養管理における実践と科学的根拠のギャップ

2025.7.18

2025年7月18日プレスリリース

Key Points

・嚥下調整食は、必要なエネルギー量を十分に満たしておらず、栄養部門もその問題を認識している
・嚥下調整食の名称や分類は病院ごとにばらつきがあり、病院間の情報共有や連携を困難にしている
・嚥下障害患者への栄養支援は管理栄養士が単独で対応している病院が多く、チーム支援体制が整っていない病院が過半数を占めている

研究の概要

本研究は、嚥下障害を有する入院患者に対する栄養管理の現状を把握し、研究に基づく推奨(エビデンス)と実臨床での実践(プラクティス)との間に存在するギャップを明らかにすることを目的として実施されました。
本調査は、嚥下障害を有する成人患者のための栄養管理方法の開発とエビデンス創出を目的とし、摂食嚥下リハビリテーションや臨床栄養に携わる医師や管理栄養士で構成される学際的ワーキンググループJapanese Working Group on Integrated Nutrition for Dysphagic People(JWIND)により企画・実施されました。2023年4月〜6月に、入院病床を有する全国5,376病院を対象に、各病院の管理栄養士向けのオンライン調査を実施し、905病院から有効回答を得ました(回答率16.8%)。そのうち、嚥下調整食を提供している857病院のデータを中心に分析を行いました。
その結果、嚥下調整食のエネルギー量は全体的に不足している傾向があり、日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021のコード2−1〜4で提供されているエネルギー量の中央値は1,200〜1,400kcal/日でした。また、約9割の病院が自院の嚥下調整食の栄養価が不十分であると認識しており、現場における課題意識も明らかになりました。

図1. 病院における嚥下調整食の栄養価に関する認識(n=857)

86.5%の病院が、提供している嚥下調整食の栄養価を「不十分(Insufficient)」と認識していると回答。

出典:Shirai Y, Ueshima J, Maeda K, et al. Nutrition Support in Dysphagia: Japan Nationwide Hospital Survey on Nutritional Values, Diet Characteristics, and Dietitians’ Roles in Texture-Modified Diets. Cureus. 2025; https://doi.org/10.7759/cureus.86191 本図は Creative Commons Attribution 4.0 International License(CC BY 4.0) のもとに再掲しています。

食事名称や分類には病院間で大きなばらつきがあり、他の病院と情報を共有・連携した際に、「名称と実際の食形態が一致していなかった経験がある」と回答した病院は84.8%にのぼりました。
しかし、他の病院と食形態情報を共有しているところはわずか37.2%にとどまり、継続的な栄養管理や連携の困難さが浮き彫りとなりました。さらに、嚥下障害患者の栄養管理は、管理栄養士が単独で対応している病院が多く、チーム体制が整っている病院は4割未満にとどまりました。

図2. JDD2021コードごとの食事名のばらつき(上位10種)

同じ食形態コードであっても、複数の食事名(A〜J)が使用されており、病院間での分類や認識の違いが明らかとなった。

出典:Shirai Y, Ueshima J, Maeda K, et al. Nutrition Support in Dysphagia: Japan Nationwide Hospital Survey on Nutritional Values, Diet Characteristics, and Dietitians’ Roles in Texture-Modified Diets. Cureus. 2025; https://doi.org/10.7759/cureus.86191 本図は Creative Commons Attribution 4.0 International License(CC BY 4.0) のもとに再掲しています。

多職種連携の体制が整っていない背景には、人員・資源の不足や専門職の限られた配置といった課題があると考えられ、質の高い栄養管理体制の構築に影響を及ぼしている可能性があります。本研究は、日本全国規模で嚥下障害患者の栄養管理の実態を可視化した初めての調査であり、今後の管理体制の標準化や多職種連携の促進、さらには質の高い栄養管理の確立に向けた基盤資料としての応用が期待されます。


論文情報

掲載誌:Cureus
論文タイトル:Nutrition Support in Dysphagia: Japan Nationwide Hospital Survey on Nutritional Values, Diet Characteristics, and Dietitians’ Roles in Texture-Modified Diets
著者名:Yuka Shirai, Junko Ueshima, Keisuke Maeda, Fumie Egashira, Yuri Horikoshi, Satoru Kamoshita, Ryo Momosaki
DOI:10.7759/cureus.86191

問い合わせ・取材申し込み先

白井祐佳
浜松医科大学医学部附属病院栄養部
yu-shirahama-med.ac.jp

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