2025/9/8公開 著者:原なおり
エルダースピーク(Elderspeak)についてご存じですか。
私は新米管理栄養士の栄養指導に付き添った際に、50歳以上も年上の初対面の方に対して「うん、うん」という相槌を打つ姿に違和感を覚えたことがあります。高齢者ケアにおいて、医療従事者が高齢者に対して「うん、いいよ」「ちょっと待っていてね」などの幼い子供に接するような場面(親しみを込めているつもりかもしれませんが・・・)に遭遇したことはないでしょうか。
エルダースピークとは、認知症のある高齢者に赤ちゃんに接するように話しかけることを意味します。このエルダースピークは認知症の高齢者がケアを拒否(RoC)する要因となることが分かってきています。
アメリカの急性期病院において、エルダースピークとRoCについて研究が行われ、53人の看護スタッフによる16人の認知症高齢者への88回のケア場面でのコミュニケーションにおいて、エルダースピークとRoCの関連が評価されました。
表 エルダースピークの例

表 ケアを拒否する症状の例

その結果、ほぼすべてのケア場面(96.6%)でエルダースピークが使われ、うち半数(48.9%)でRoCがあり、エルダースピークが10%減少するとRoCは77%減少し、その重症度も低下することが分かりました。
また、性別や疼痛とRoCの関係も併せて評価され、痛みの程度が大きいほどRoCが発生しやすいこと、エルダースピークと痛みのレベルが高いほどRoCの重症度が高くなること、女性よりも男性の方がRoCの傾向が強いことが明らかになりました。
図 エルダースピークでケア拒否の可能性が増す

RoCの要因はエルダースピークだけではありませんが、この研究において分かったことは医療者側がRoCを減らすためにできることは、エルダースピークを避けることと痛みを軽減させることです。
エルダースピークはトレーニングによって減らすことができると考えられています。相手に対する敬意を持つことで、認知症の高齢者に対する苦痛を減らし、それが高齢者ケアの現場の負担を軽減させることに繋がります。
私は入職したばかりの頃に、看護師長さんから「だいたいの患者さんは自分より年上、人生の先輩なのでリスペクトの心をもって接しましょう!」と言われたことを強く覚えています。この時の言葉が15年以上たった今になって、エルダースピークと高齢者のRoCと結びつき、患者さんのよりよい療養のためにとても重く大切な言葉であったと気付かされました。
臨床現場での忙しい業務において、自分の対人援助におけるコミュニケーションや接し方を改めて振り返ってみてはどうでしょうか。
参考文献
Clarissa A, et al. J Am Geriatr Soc . 2022 Aug;70(8):2258-2268.