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高齢期の食の多様性とフレイル

2025.11.12

著者:牧迫飛雄馬(鹿児島大学医学部保健学科)

1.食習慣とフレイル

普段の食習慣はフレイルの予防や改善に影響する重要な生活習慣のひとつとなります。たとえば、「地中海食」に代表されるような果物・野菜・全粒・魚・良質な脂肪を多く含む食習慣は、フレイルの発生リスクの低下と関連することが報告されています(1)。フレイルの予防や改善のためには、良質なタンパク質の摂取が重要とされています。特に、フレイルに該当する高齢者では動物性タンパク質の摂取が少ない傾向が報告されています(2)。しかし、習慣化を考慮すると特定の栄養素や食品による対策よりも、食の多様性を促すことは手軽で有効性が期待できる重要なポイントであると言えます。

2.食の多様性の評価

食の多様性を評価するさまざまな方法が報告されていますが、わが国の高齢者を対象とした研究では、「食品摂取多様性スコア」による評価が多く用いられています(図1)。この評価指標では、肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、果物、いも類、および油脂類の10食品群の1週間の食品摂取頻度から食品摂取の多様性を評価します。各食品群に対して、「ほぼ毎日食べる」を1点、「2日に1回食べる」、「週に1、2回食べる」、「ほとんど食べない」を0点とする10点満点のDietary Variety Score(DVS)(3)で算出する方法と、「ほぼ毎日食べる」を3点、「2日に1回食べる」を2点、「週に1、2回食べる」を1点、「ほとんど食べない」を0点とする30点満点のFood Frequency Score(FFS)(4)として算出する方法が用いられます。

3.食の多様性とフレイル

食の多様性の低下はフレイルと関連することが報告されています(5)。地域在住高齢者577名を対象に食品摂取多様性のFFSとJ-CHS基準によるフレイルとの関連を調べた結果、フレイルに対するFFSのカットオフ値は16/17点であり、健常群でFFSが16点以下の割合は17.6%であったのに対して、フレイル群では41.8%がFFS16点以下に該当していました(図2)。FFSが16点以下の高齢者ではFFSが17点以上の高齢者よりもフレイルに該当するオッズ比が有意に高い結果を示しました(オッズ比3.46、95%信頼区間1.60―7.50、p=0.01)。

4.食の多様性の対策

食の改善のために日々の食事において特定の栄養素や食品の摂取量を確認したり、調整したりすることは、高齢者にとって容易なことではないかもしれません。しかし、食の多様性の観点から、日々の食生活を振り返って、10の食品群の摂取を心がけるような対策は取り組みやすいと考えられます。たとえば、カレンダーのようなチェックリストでその日に摂取した食品群をチェックして、不足している食品をメニューに加えるなどの取組で食の多様性を向上できることが期待されます(図3)。

文献

1.              Veronese N, Stubbs B, Noale M, et al. Adherence to a Mediterranean diet is associated with lower incidence of frailty: A longitudinal cohort study. Clin Nutr. 2018;37(5):1492-7.

2.              Coelho-Junior HJ, Calvani R, Picca A, et al. Protein Intake and Frailty in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Nutrients. 2022;14(13).

3.              熊谷修, 渡辺修一郎, 柴田博, 他. 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連. 日本公衆衛生雑誌. 2003;50(12):1117-24.

4.              Kimura M, Moriyasu A, Kumagai S, et al. Community-based intervention to improve dietary habits and promote physical activity among older adults: a cluster randomized trial. BMC Geriatr. 2013;13:8.

5.              Kiuchi Y, Makizako H, Nakai Y, et al. The Association between Dietary Variety and Physical Frailty in Community-Dwelling Older Adults. Healthcare (Basel). 2021;9(1).


本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています

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