老年栄養ドットコム

地域在住高齢者の摂食嚥下 フレイル・サルコペニアとの関連

2025.11.17

著者:鈴木瑞恵(北海道医療大学リハビリテーション科学部言語聴覚療法学科)

年齢とともにさまざまな機能が衰えることが知られており、近年では摂食嚥下に関わる機能も低下することが明らかになってきました。加齢に伴う摂食嚥下機能の変化に気づくためには、フレイル、サルコペニアとの関わりを押さえておくことが重要です。本稿では、元気高齢者における摂食嚥下機能について、フレイルとサルコペニアの観点から述べていきます。

1.フレイルと摂食嚥下

フレイルとは多面的な虚弱を表す概念であり、摂食嚥下に関しても高齢者の「健口」を推進するキーワードとして「オーラルフレイル」という概念が提唱されました。オーラルフレイルの有病率は診断方法の違いによりさまざまですが、地域在住高齢者の30〜40%が該当するとされており、けして低くはない有病率といえます(1,2)

オーラルフレイルは、摂食機能低下のみならず、さまざまな有害事象のリスク因子となる点が重要です。Tanakaらの報告によれば、オーラルフレイル高齢者は数年後の身体的フレイルやサルコペニアの発生、新規の要介護認定、死亡率が高かったことが報告されています(3)。この背景には、オーラルフレイルによって多様性の低い食事(偏った食事)となり、栄養状態の低下から身体的フレイルになるという摂食嚥下の視点に立ったルートと、オーラルフレイルによって他者との交流が減少し社会的孤立になることで身体的フレイルにつながるという社会的交流の視点に立ったルートの2つのルートが想定されています(2)(図1)。オーラルフレイルの予防は、これらのルートを断ち切り、さまざまな健康有害事象の発生を低減できる可能性があることから、さらなる啓発、介入戦略が求められています。

図1オーラルフレイルと身体的フレイルの関連性

(引用文献(2)より作図)

2.サルコペニアと摂食嚥下

サルコペニアとは、骨格筋量減少と筋力低下の双方を有する場合を呼びます(4)。サルコペニアを有する高齢者では摂食嚥下機能が低下しやすく、例えば要介護高齢女性では、サルコペニアの場合に最大舌圧値、オーラルディアドコキネシスが低下し(5)、嚥下能力(1秒あたりの飲水量)も低いことが示されています(6)。これらの研究対象者は常食を摂取している高齢者が対象であり、摂食嚥下に大きな問題がない段階から、サルコペニア高齢者では機能低下が現れていることが分かります。

近年では、サルコペニアによって摂食嚥下障害まで増悪するケースも増えており、特に入院患者で問題視されるようになってきました。その有病率は急性期病院入院患者において22.8%であり、他の摂食嚥下障害の3倍であったことが示されています(7)。サルコペニアの摂食嚥下障害は、脳卒中や神経筋疾患などの明らかな原疾患がないにも関わらず生じる摂食嚥下障害を説明する病態として注目されており、臨床現場で増加している大腿骨頚部骨折や急性心不全患者の摂食嚥下障害の原因と考えられています(8,9)。元気なうちからサルコペニアによって低下しつつあった機能が、入院を契機に障害へと発展した可能性も考えられ、より早期の介入の重要性が示唆されます。

3.摂食嚥下の予防・介入に向けて

高齢者の摂食嚥下機能低下について、フレイルとサルコペニアの関わりの観点から述べてきました。こうした機能低下に対し、より有用な予防・介入が求められています。これまでの研究では、専門職による指導や摂食嚥下に関わる筋の筋力増強トレーニングが有効であることが示されています。また、会話やカラオケなど日常で声を出す機会が最大舌圧値と関連したことも示されており(10)、摂食嚥下に関わる器官を日常的に使用することの重要性も明らかになってきました。

その一方で、身体機能に比べると摂食嚥下機能に対する高齢者の関心は高くなく、社会的な啓発が重要な課題となっています。例えば、2020〜2021年に行われた調査では高齢者の17.3〜34.2%がオーラルフレイルを知っていると回答するに留まっています(11)

今後は高齢者をはじめとした社会に対する啓発活動を推進するとともに、より有用な予防介入の方法について効果検証を行うことが重要と考えられます。

参考文献

1.    Tanaka T, Hirano H, Ikebe K, et al. Oral frailty five-item checklist to predict adverse health outcomes in community-dwelling older adults: A Kashiwa cohort study. Geriatr Gerontol Int. 2023 Sept;23(9):651–9.
2.    Iwasaki M, Shirobe M, Motokawa K, et al. Prevalence of oral frailty and its association with dietary variety, social engagement, and physical frailty: Results from the Oral Frailty 5-Item Checklist. Geriatr Gerontol Int. 2024 Apr;24(4):371–7.
3.    Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, et al. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73(12):1661–7.
4.    Chen L-K, Hsiao F-Y, Akishita M, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025 Nov 4;5(11):2164–75.
5.    Suzuki M, Koyama S, Kimura Y, et al. Relationship between characteristics of skeletal muscle and oral function in community-dwelling older women. Arch Gerontol Geriatr. 2018;79:171–5.
6.    Suzuki M, Kimura Y, Otobe Y, et al. Relationship between Sarcopenia and Swallowing Capacity in Community-Dwelling Older Women. Gerontology. 2020 Oct 19;66(6):549–52.
7.    Nagano A, Onaka M, Maeda K, et al. Prevalence and characteristics of the course of dysphagia in hospitalized older adults. Nutrients. 2023 Oct 15;15(20):4371.
8.    Suzuki M, Nagano A, Ueshima J, et al. Prevalence of dysphagia in patients after orthopedic surgery. Arch Gerontol Geriatr. 2024 Apr 1;119:105312.
9.    Suzuki M, Saino Y, Nagami S, et al. Dysphagia development in heart failure patients: A scoping review. Arch Gerontol Geriatr. 2024 Dec;130(105728):105728.
10. Nagayoshi M, Tamai M, Takeuchi K, et al. Frequency of conversation, laughter and other vocalising opportunities in daily life and maximum tongue pressure: The goto longevity study. J Oral Rehabil. 2025 Sept 22;52(9):1288–96.
11.        Irie K, Mochida Y, Altanbagana NU, Fuchida S, Yamamoto T. Relationship between risk of oral frailty and awareness of oral frailty among community-dwelling adults: a cross-sectional study. Sci Rep. 2024 Jan 3;14(1):433.


本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています

関連記事

災害時における高齢者の栄養問題

2025.12.8

低栄養―障害サイクル

2025.12.8

注目されている新概念、Muscle Healthとは?

2025.12.8