著者:百崎 良(三重大学医学部附属病院リハビリテーション部)
Asian Working Group for Sarcopenia:AWGSから、新たなサルコペニアの診断基準(AWGS2025)が2025年11月に発表されました(1)。主な変更点は3つで、1つ目は歩行速度などの身体機能は診断必須項目から除外され、アウトカム指標となりました。これにより、重度サルコペニアという概念も削除され、サルコペニアの診断は筋力と筋肉量の2つで行うこととなりました。2つ目として対象年齢が50歳以上に拡大されました。これにより50~64歳のカットオフ値も新たに設定されています。3つ目として、筋肉量の評価にBMI補正値も使用可能となりました。

診断基準から身体機能がなくなったことで、より簡便にサルコペニアの診断が行えるようになりました。また、対象年齢が拡大されたことで、より早期の介入と予防的アプローチが可能となります。これまで筋肉量の評価は、身長の二乗で補正したものが使用されていましたが、筋肉量が少ないにもかかわらずBMIが大きい、いわゆるサルコペニア肥満の健康リスクが過小評価されていました。BMIでの補正値が使用できることになったことで、サルコペニア肥満の健康リスクをより精度よく評価できるようになりました。
介入については、従来どおり運動と栄養が中心に据えられています。レジスタンストレーニングに有酸素運動を組み合わせる複合的な運動が筋量・筋力・身体機能の改善に効果的であり、十分なたんぱく質摂取が推奨されています。HMB、オメガ 3 脂肪酸、ビタミンDなどは一定の効果が示唆される一方で、結論としてはなお慎重で、運動と栄養という基本をどう強化するかが中心に位置づけられています。薬物療法については、選択的アンドロゲン受容体モジュレーターやミオスタチン中和抗体など興味深い試みはありますが、臨床で使える段階に至ったものはまだありません。さらに今回の改訂では、デジタル技術の応用にも触れられています。エクサゲームやデジタルダンスによる介入が握力や歩行速度を改善する可能性が示されており、資源が限られる地域でのスクリーニングやモニタリングにも応用が期待されています。

今回の改定では、筋と脳・骨・脂肪・免疫の相互連関に注目したmuscle healthの枠組みが強調され、WHOの高齢者のための統合ケア(ICOPE)の実装を活用することで、より積極的なmuscle health増進にむけた方向性が示されました。Muscle healthを促進のためにも、今後のサルコペニア診断についてはこの新たな基準を使って頂けたらと思います。
参考文献
1)Chen LK, Hsiao FY, Akishita M, Assantachai P, Lee WJ, Lim WS, Muangpaisan W, Kim M, Merchant RA, Peng LN, Tan MP, Won CW, Yamada M, Woo J, Arai H. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025 Nov;5(11):2164-2175.
本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています
