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オーラルフレイルと栄養ケア

2025.12.1

著者:本川佳子(東京都健康長寿医療センター研究所)

フレイル対策における栄養のポイントと口腔機能の関わり

 フレイル予防のための食事については,様々な食品を摂取する食品摂取多様性の重要性が指摘されています。食品摂取の多様性スコア1)を用いてフレイルとの関連を検討すると,フレイルのグループは3.9点,プレフレイルのグループは4.3点,Robustのグループは4.5点とフレイルのグループで最も低値を示し,有意な関連が認められました2)。先行研究においても食品摂取多様性スコアが6点以上で,除脂肪量が有意に高い値を示すとの報告があります3)。この10項目の食品摂取の多様性スコアの点数が高いことは,炭水化物・穀類エネルギー比が低い,エネルギー・たんぱく質・脂質エネルギー比が高い,ミネラルの摂取が多い食生活につながっていることが報告され4),これら栄養素の摂取がフレイルに良い影響を示す可能性が考えられます。食品摂取の多様性スコアは10食品の摂取向上を目指すもので,高齢者やその家族にも理解しやすいものです。実際に特定高齢者に対し,3か月間の栄養介入を行った結果,食品摂取の多様性スコアが1.7点増加し,緑黄色野菜以外の9食品の項目で摂取する割合が増加したとの報告もあります5)。

このように地域におけるフレイル対策には食品摂取多様性の維持・向上が重要ですが,その食品摂取多様性の土台として口腔機能が関連していることがわかっています。LOTTE社製の咀嚼力判定ガムを用いて,地域在住高齢者を対象に咀嚼機能と食品・栄養素等摂取量の差について検討したところ,よく噛めるグループに比較して,噛めないグループは多くの栄養素,食品群別摂取量で低値を認めました6)。特に摂取量で10%程度の差を認めたのは,栄養素ではたんぱく質,脂質,鉄,ビタミンA,ビタミンCであり,食品群別摂取量ではいも類,緑黄色野菜,その他の野菜,海藻類,豆類,魚介類,肉類,種実類となっていました。これらの結果は先行研究とも一致し,Iwasakiらは75歳の高齢者の縦断研究において歯牙欠損の存在がたんぱく質,カルシウム,ビタミン類,野菜類,肉類の摂取低下につながることが報告され7),フレイル対策のための食品摂取の多様性の維持・向上を進めるにあたっては,口腔機能を含めた栄養ケアが必要であることを示しています。

オーラルフレイルとは?

口の機能を維持・向上させるためには,加齢に伴うささいな衰えを軽視せず,食べる機能の低下や心身の機能低下につながらないよう早期に対策を講じる必要があります。この観点から提唱されたのが「オーラルフレイル」という概念です。

オーラルフレイルは,2024年に新たに「Oral Frailty 5-item Checklist(OF-5)」として公表され,歯科医療専門職が不在の場でも評価が可能となった8)(図1)。5項目は「残存歯数の減少」「咀嚼困難感」「嚥下困難感」「口腔乾燥感」「滑舌低下」で構成され,2項目以上に該当するとオーラルフレイルと判定されます。

図1 オーラルフレイルの概念と評価

出典:https://www.gerodontology.jp/committee/002370.shtml

OF-5を用いた調査では,地域在住高齢者の約4割がオーラルフレイルに該当し,フレイル,食品摂取の多様性,社会交流,要介護認定,さらには死亡と関連することが報告されています9,10)。また,食品摂取多様性に関しては,構造方程式モデリングの解析により,オーラルフレイルが食品摂取多様性スコアの低値を介してフレイルにつながるという経路も示されています10)。

これら5つの項目は歯科専門職以外でも簡便に運用でき,通いの場など専門機器を持たない場面でも評価が可能であることから,今後の普及と啓発が期待されています。

今後の展望

近年,口腔保健と栄養の関連に関する研究は急速に増加しており,文献数は一貫して増え続け,本分野の研究の活発化が明確に示されています。

Suzukiらは,総義歯作成に簡便な栄養指導を加えることで,栄養素等摂取量の増加と咀嚼機能の改善に寄与したことを報告しています11)。これらの知見は,歯科と栄養が連携することで単独では得られない相乗効果(シナジー)が生まれ,高齢期の健康維持や健康寿命延伸に強く寄与することを示しています。

2025年問題に象徴されるように,後期高齢者の急増や地域包括ケアシステムの進展など,日本は大きな転換期を迎えています。こうした中で,より早期からのフレイル対策において「食べることの維持」は一層重要となり,オーラルフレイルの評価を含めた栄養ケア・栄養介入の強化が不可欠となると考えます。

参考文献

1)熊谷修, 渡辺修一郎, 柴田博 他, 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連. 日本公衆衛生雑誌, 2003, 12, 1117-1124.

2)Motokawa K, Edahiro A, Watanabe Y et al., Frailty and dietary variety in Japanese older persons: a cross-sectional study. J Nutr Health Aging, 2018, 22, 1211-1216. 

3)Yokoyama Y, Nishi M, Murayama H et al., Association of dietary variety with body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese. J Nutr Health Aging, 2016, 20, 691-696. 

4)成田美紀, 北村明彦, 武見ゆかり 他. 地域在宅高齢者における食品摂取多様性と栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事日数との関連. 日本公衆衛生雑誌. 2020, 67, 171-180.

5)深作貴子, 奥野純子, 戸村成男 他.特定高齢者に対する運動及び栄養指導の包括的支援による介護予防効果の検証. 日本公衆衛生雑誌. 2011, 58, 420-432.

6)Motokawa K, Mikami Y, Shirobe M, et al., Relationship between Chewing Ability and Nutritional Status in Japanese Older Adults: A Cross-Sectional Study, Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18, 1216; https://doi.org/10.3390/ijerph18031216

7)Iwasaki M, Yoshihara A, Ogawa H, Longitudinal association of dentition status with dietary intake in Japanese adults aged 75 to 80 years. J Oral Rehabil. 2016, 10, 737-744.

8)一般社団法人日本老年医学会,一般社団法人日本老年歯科医学会,一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会.オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント.2024.

9)Tanaka T, Hirano H, Ikebe K et al., Oral frailty five-item checklist to predict adverse health outcomes in community-dwelling older adults: A Kashiwa cohort study. Geriatr Gerontol Int. 2023, 23, 651–659.

10)Iwasaki M, Shirobe M, Motokawa K, et al., Prevalence of oral frailty and its association with dietary variety, social engagement, and physical frailty: Results from the Oral Frailty 5-Item Checklist. Geriatr Gerontol Int. 2024, 24, 371-377.

11)Suzuki H, Kanazawa M, Komagamine Y et al., The effect of new complete denture fabrication and simplified dietary advice on nutrient intake and masticatory function of edentulous elderly: A randomized-controlled trial. Clin Nutr. 2017, 17, 30263-7.


本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています

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