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低栄養―障害サイクル

2025.12.8

著者:西岡心大(長崎県立大学大学院地域創生研究科 看護栄養学部栄養健康学科)

1. 低栄養―障害サイクル(malnutrition-disability cycle)

近年、特に高齢者において、低栄養などの栄養障害が身体機能や日常生活動作(activities of daily living: ADL)を阻害することや、栄養管理がリハビリテーション治療の効果を最大化させることが広く認知されてきました。診療報酬改定においても、回復期リハビリテーション病棟入院料における管理栄養士配置の要件化、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の新設など、リハビリテーションと栄養との関連性は周知のものとなっています。

一方で、摂食嚥下障害などの機能障害や、食事摂取能力低下のようなADL制限は、食事摂取量の低下などを通じて低栄養を助長することがあります。つまり、低栄養は身体障害を加速させ、身体障害が栄養状態を悪化させる相互関係があることが想定されます。筆者らはこのような身体障害と低栄養の相互関係を「低栄養―障害サイクル(malnutrition-disability cycle)」と呼ぶことを提唱しています1)。このページでは、低栄養―障害サイクルとの概要と、それを支持するエビデンスについて解説します。

2. 低栄養関連身体障害(MAPD)

 低栄養―障害サイクルは、低栄養と身体障害との相互関係をモデル化したものです(図1)。低栄養は種々の要素により構成されていますが、Global Leadership Initiative on Malnutrition (GLIM)基準に規定されている表現型である体重減少、body mass index (BMI)低値、筋量減少の3要素を基に考えてみます2)。身体障害も多種多様ですが、機能レベルでの身体能力低下と摂食嚥下障害、能力レベルでのADLと手段的ADL(instrumental ADL: IADL)を例にとります。低栄養は筋力低下(サルコペニア)や疲労感(フレイル)を来たすことが知られています。筋力低下や疲労感は直接的に身体能力を低下させ、身体能力やADL低下の原因となる。加えて、サルコペニアは摂食嚥下障害を悪化させることが知られています3)。また、低栄養は合併症を増加させ、在院日数の延長につながります。これにより廃用が助長され、身体能力、ADL、IADLの低下がもたらされると考えられます。このような、低栄養による身体障害の発生・増悪を低栄養関連身体障害(malnutrition-associated physical disability: MAPD)と定義しています1)。MAPDに対しては、栄養管理を行うことで身体障害の悪化を予防したり、改善できる可能性があります。

図1. 低栄養―障害サイクル

共通背景要因(加齢/疾患/多剤処方/社会経済的要因など)低栄養体重減少BMI筋量減少身体障害身体能力低下嚥下障害ADL低下IADL低下サルコペニアフレイル在院日数延長食事摂取量低下食欲減退廃用性筋委縮低栄養関連身体障害(MAPD)障害関連低栄養(PDAM)

3. 身体障害関連低栄養(PDAM)

MAPDに対して、身体障害に関連する低栄養のことを身体障害関連低栄養(Physical-disability associated malnutrition: PDAM)と呼んでいます1)。PDAMの機序として、摂食嚥下障害、食事摂取能力、調理能力不足や買い物困難などによる食事摂取量低下、身体活動能力やADL低下による食欲低下および廃用性筋委縮などが挙げられます。PDAMに対しては、リハビリテーション治療、リハビリテーション看護・ケア、社会的支援などを行うことで身体機能・ADL・IADLを向上することが期待されます。

4. 共通背景要因

 低栄養と身体障害の関係性は複雑で、MAPDとPDAMだけではなく、低栄養と身体障害それぞれの共通背景要因を捉えなければ全体像をつかむことはできません。低栄養と身体障害双方を引き起こし得る要因として、以下のようなものがあります1)

●加齢に伴う生理的変化(味覚・嗅覚閾値の上昇、消化吸収能低下、ホルモン分泌の変化、骨格筋減少、認知機能低下など)
●急性疾患や外傷、慢性疾患と関連する炎症反応
●多剤処方
●社会経済的問題(食料入手アクセスの障害、貧困、孤独など)

5. エビデンスの現状

 低栄養―障害サイクルはあくまで理論的に構築したモデルですので、エビデンスによる裏打ちが必要です。ただ、低栄養も身体障害も多くの概念、構成要素の集合体ですので、これまでの調査では要素どうしの関連性が解明されていない領域が大半でした1)。また因果関係が不明確な横断研究によるエビデンスも多く、逆因果(結果と原因の逆転)や相互関連のない併存状態により説明できる可能性があります。

 そこで2000年~2020年に出版された論文から得たエビデンスを図2にまとめました。低栄養―障害サイクルの構成要素間において、2つ以上の研究で一貫した結果が得られた、あるいは5つ以上の研究(1つ以上のコホート研究・介入研究を含む)で正の関連が得られ、負の関連を示す研究が1つのみ、という条件で線をつないでいます。このうち、相互関連の可能性が確認できたのは低体重と摂食嚥下障害のみでした。領域ごと、要素ごとに低栄養-障害サイクルが成立し得るかは今後検証する必要がありますが、低栄養と障害との相互関係を意識することは高齢者医療における評価の質を高めるものと考えられます。

図2. 低栄養と身体障害との相互関係に関するエビデンスのまとめ1)

BMI低筋量ADL食事介助要摂食嚥下障害身体能力低下機能レベル活動レベル体重減少低栄養身体障害

<参考文献>

1. Nishioka S, Wakabayashi H. Interaction between malnutrition and physical disability in older adults: is there a malnutrition-disability cycle? Nutr Rev. 2023;81(2):191-205.

2. Cederholm T, Jensen G, Correia M, et al. The GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – a consensus report from the global clinical nutrition community. Clin Nutr. 2019;38(1):1-9.

3. Fujishima I, Fujiu-Kurachi M, Arai H, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 2019;19(2):91-97.


本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています

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