老年栄養ドットコム

リハビリテーション栄養を口腔から支える

2025.12.11

著者:野本亜希子(浜松市リハビリテーション病院)

1.はじめに

2024年度の診療報酬改定において、「リハビリテーション(以下、リハビリ)・栄養・口腔の一体的取り組み」が重要テーマの一つとなりました。急性期では「連携体制加算」が新設され、回復期リハビリ病棟でも施設基準に「歯科受診を促す」という文言が追加、歯科診療報酬に回復期等口腔機能管理が導入されました。この変更により、回復期における口腔への関与が必要と認識されつつありますが、回復期リハビリにおいては、単に「促す」という受動的な姿勢に留まるべきではありません。リハビリの効果を最大限に引き出すためには、十分な栄養摂取が不可欠であり、そのためには口腔の整備と機能向上が欠かせません。回復期こそ、リハビリ・栄養・口腔の連携が最も効果を発揮すると言えます。

回復期における口腔状態とリハビリのアウトカムに関する報告はその重要性を裏付けます。具体的には、適切な咬合支持が日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)回復や栄養状態改善に独立して関連すること1)、不良な口腔状態が食欲不振と関連すること2)、口腔機能の低下が退院時の身体機能の独立した予測因子となること3)、サルコペニア有病率とも密接に関連すること4)が示されています。これらのエビデンスは、「口腔の整備」なしには機能回復のポテンシャルを十分に引き出せないことを示唆しており、口腔状態が悪いままリハビリを継続することは、非効率的であると言えます。

2.回復期における口腔の問題の本質

リハビリ実施中の患者様の約70%は口腔状態が不良であり5),臨床現場でも実際に口腔状態が不良な方々が多いです(図1)。不良な口腔状態の原因は多岐にわたり、急性期入院中に生じた義歯不適合や、口腔乾燥など、全身状態に起因する問題も確かに存在します。しかし、ここで注目すべきは、病前から口腔状態の不良を放置していたことが問題の本質であるという点です。

図1 回復期入院患者様の不良な口腔状態の一例

病前から口腔状態が不良であった主な原因は、以下の生活機能の低下に集約されます。

・ADL低下による通院困難: 身体機能の低下により、歯科通院できなくなった。
・認知機能低下と口腔リテラシーの希薄化: 認知機能の低下で口腔内への関心が薄れ、セルフケアの継続が困難になった。
・介護者の負担増: 介護負担増により、口腔ケアや義歯管理の優先順位が相対的に低下した。

つまり、回復期での口腔管理は、急性期で生じた一時的な口腔状態不良を「その場しのぎ」で立て直すのではなく、生活の再構築に根差した口腔管理が必要です。リハビリがADLの再獲得を目指すのと同様に、歯科も口腔機能の再獲得と、その後の生活での維持を視野に入れる必要があります。

3. 回復期のリハビリテーション栄養を口腔から支えるための歯科の役割

回復期のリハビリ・栄養・口腔連携における歯科の果たすべき役割は、以下の3つに整理できます。

・専門的口腔ケア
・歯科治療および口腔機能へのアプローチ
・嚥下補助装置の活用

3.1 専門的口腔ケア

歯科衛生士による入院中の専門的口腔ケアは、ADLや自宅退院率、死亡率の改善効果が報告されており、その有効性は確立されています6)。しかし、回復期における歯科衛生士の役割は、「口腔をきれいにする」だけではありません。回復期の患者様の状態は、意識障害の方、軽度の麻痺で一部介助が必要な方、認知機能低下の症状が強い方など様々で、そのような方々に対し、リハビリテーションの場として、残存能力を最大限に活かしつつ、機能を改善させる関わりが求められます。歯科衛生士は、単なる口腔清掃ではなく、残存機能を見極め、適切な口腔ケア方法を指導・サポートすることで、口腔ケア自体をリハビリの一環として位置づけ、「口から食べる」ための準備を整えます。

3.2 歯科治療および口腔機能へのアプローチ

回復期入院患者は口腔状態不良が多いですが、実は回復期という環境は要介護高齢者の歯科治療を集中的に行うのに極めて適しています。

その理由は以下の3点です。

・十分な入院期間: 数ヶ月に及ぶ入院期間があるため、義歯の修理や新規作製など、通常は通院で時間がかかる治療も集中的に行えます。
・医学的管理下による安定性: 急性期を脱し全身状態が比較的安定しており、医療的設備が整っているため、比較的安全に治療を進められます。
・多職種連携の容易さ: 医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、管理栄養士が常駐し、情報共有や協働がしやすい環境にあります。

特に、義歯の治療ニードが高い回復期7)では、義歯の修理や作製などの時間のかかる根本治療が可能です。医師や看護師が口腔内の状態不良に気づき、歯科と連携することで、歯科は義歯を含めた口腔内の包括的な整備を行います。その後、STや管理栄養士と食形態や嚥下訓練について連携を密に行うことで、入院中により形のある食事を安全に摂取できる可能性が高まります(図2)。

図2 図1患者様の退院時の口腔内

病院歯科常設の回復期病院では、退院時に嚥下調整食を離脱している割合が高いことが報告されています8)。さらに、歯科治療を実施した脳卒中回復期の患者で、不適合義歯の頻度が減少し、舌圧や口唇・舌の運動機能が改善したという報告もあります9)。これは、単なるリハビリの効果だけでなく、歯科治療による口腔内の整備と機能訓練が相乗的に作用した結果と考えられます。

3.3嚥下補助装置の活用

嚥下補助装置とは、嚥下・構音機能をサポートする口腔内装置です。回復期で頻度が高いのは、舌接触補助床(Palatal Augmentation Prosthesis: PAP)と軟口蓋挙上装置(Palatal Lift Prosthesis: PLP)です。

・PAP

適応: 舌の切除、脳血管障害、神経筋疾患などにより舌の運動機能が低下した方。

機能: 舌と口蓋の接触を物理的に回復させ、食物の送り込み(嚥下)や構音(発音)をサポートします。舌の機能に合わせて、上顎の口蓋部分に厚みを調整した装置を装着します(図3)。

図3 舌接触補助床

・PLP

適応: 軟口蓋の挙上が不十分で、鼻咽腔閉鎖不全がある方。

機能: 構音の明瞭度を上げるとともに、食物や水分が鼻咽腔へ逆流するのを防ぐこと(鼻咽腔閉鎖)を目的に使用されます。硬い口蓋床部分から伸びる挙上子が軟口蓋を押し上げる構造になっています(図4)。

図4 軟口蓋挙上装置

これらの装置は、医師やSTなどと嚥下機能の評価結果を共有し、協議しながら作製・調整を行うことが望ましいです。

4.最後に

口腔は、Quality of lifeに直結する「食べる」「話す」「表情を作る」機能の玄関口です。歯科治療による口腔内の土台の整備、専門的口腔ケアによる合併症の予防、嚥下補助装置による失われた機能を代償、これらは全てリハビリテーション栄養を成功させる強力なブースターとなります。

リハビリ・栄養・口腔連携という新たなテーマのもと、医療者の皆様には口腔の視点をもって患者様の全身管理と機能回復に取り組んでいただくことを切に願います。多職種が密に連携し、患者様の「食べる」をともに支えていきましょう。

参考文献

1) Sawa Y, et al. Occlusal support is associated with nutritional improvement and recovery of physical function in patients recovering from hip fracture, Gerodontology. 37(1):59-65, 2020.
2) Nomoto A, et al. Poor oral health and anorexia in older rehabilitation patients, Gerodontology. 39(1):59-66, 2022.
3) Shiraishi A, et al. Poor oral status is associated with rehabilitation outcome in older people, Geriatr Gerontol Int. 17(4):598-604, 2017.
4) Shiraishi A, et al. Prevalence of stroke-related sarcopenia and its association with poor oral status in post-acute stroke patients: Implications for oral sarcopenia, Clin Nutr. 37(1):204-207, 2018.
5) Andersson P, et al. Oral health and nutritional status in a group of geriatric rehabilitation patients. Scand J Caring Sci. 16(3):311-318, 2002.
6) Shiraishi, A, et al. Hospital dental hygienist intervention improves activities of daily living, home discharge and mortality in post-acute rehabilitation. Geriatr Gerontol Int. 19 (3):189-196, 2019.
7) Ohno T, et al. Characteristics of Hospital Dentistry for Hospital Patients and Differences in the Acute, Convalescent, Chronic, and End-of-Life Phases in Japan, Geriatr Gerontol Int. 25(11):1603-1608, 2025.
8) Ohno T, et al. Impact of Hospital Dentistry on Patients’ Food Intake Status in Convalescent Rehabilitation Ward. J Oral Rehabil. 51(11):2467-2474, 2024.
9) Matsuo K, et al. Effects of Dental Treatments on the Recovery of Oral Function Associated With Dietary Intake in Subacute Stroke Patients: A Multi-Center Prospective Study. J Oral Rehabil. Online ahead of print, 2025.


本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています

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