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SARC-Fの歴史と日本語版SARC-F

2025.3.29

2025/3/29公開 著者:石田優利亜

サルコペニアとは、加齢に伴い筋肉量と筋力が低下する状態で、高齢者の身体機能に重大な影響を及ぼします。特に、サルコペニアは日常生活の自立度を低下させ、転倒や骨折、さらには死亡リスクの増加に繋がることがあるため、早期に発見し、介入することが非常に重要です。サルコペニアのスクリーニングツールとして、SARC-F が開発され、世界中で広く使用されています。

SARC-Fの開発と歴史的背景

SARC-Fは、2013年にMalmstromとMorleyによって開発されました。このツールは、高齢者におけるサルコペニアのリスクを簡単かつ迅速に評価するためのスクリーニングツールです。サルコペニアは、適切な治療介入によって改善可能なことが多く、そのため、開発者たちはサルコペニアを早期に診断できる簡易なスクリーニングツールの必要性を感じました。

SARC-Fは、身体的機能に関する5つの質問を基にスコアを算出します。具体的には、「持ち上げる能力」、「歩行能力」、「立ち上がり能力」、「階段昇降能力」、「転倒歴」に関する質問です。これにより、短時間でサルコペニアのリスクを評価することができます。

日本語版SARC-F

日本語版のSARC-Fも複数の研究者によって開発されています。その中で代表的なものには、高齢糖尿病患者を対象に開発された「SARC-F-J」があります※1。また、Tanakaらの研究では、地域在住の高齢者734名を対象に、日本語版SARC-Fの妥当性が確認されました※2。さらに、栗田(京都大学)、紙谷司(京都大学)、脇田貴文(関西大学)らの研究チームは、SARC-Fを日本語に翻訳し、逆翻訳の手続きを経て、正式に日本語版を作成しました※3。このプロセスでは、SARC-Fの原作者であるJohn Morley教授(セント・ルイス大学)からも確認を受け、日本語版の使用許可を得ています(2017年11月30日)。このように、複数の研究者がSARC-Fの日本語版を開発しています。

栗田らのSARC-F日本語版:サルコペニアのスクリーニングのための質問票:https://noriaki-kurita.jp/resources/sarc-f-jpn/

Kurita N, Wakita T, Kamitani T, Wada O, Mizuno K. SARC-F Validation and SARC-F+EBM Derivation in Musculoskeletal Disease: The SPSS-OK Study. J Nutr Health Aging. 2019;23(8):732-738. doi: 10.1007/s12603-019-1222-x. PMID: 31560031.画像は一部改変

引用文献

1. Ida S, Murata K, Nakadachi D, Ishihara Y, Imataka K, Uchida A, Monguchi K, Kaneko R, Fujiwara R, Takahashi H. Development of a Japanese version of the SARC-F for diabetic patients: an examination of reliability and validity. Aging Clin Exp Res. 2017 Oct;29(5):935-942. doi: 10.1007/s40520-016-0668-5. Epub 2016 Nov 10. Erratum in: Aging Clin Exp Res. 2020 Oct;32(10):2113. doi: 10.1007/s40520-019-01308-1. PMID: 27832470; PMCID: PMC6702187.
2. Kera T, Kawai H, Hirano H, Kojima M, Watanabe Y, Motokawa K, Fujiwara Y, Ihara K, Kim H, Obuchi S. SARC-F: A validation study with community-dwelling older Japanese adults. Geriatr Gerontol Int. 2019 Nov;19(11):1172-1178. doi: 10.1111/ggi.13768. Epub 2019 Sep 18. PMID: 31535433.
3. Kurita N, Wakita T, Kamitani T, Wada O, Mizuno K. SARC-F Validation and SARC-F+EBM Derivation in Musculoskeletal Disease: The SPSS-OK Study. J Nutr Health Aging. 2019;23(8):732-738. doi: 10.1007/s12603-019-1222-x. PMID: 31560031.

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