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糖尿病患者におけるサルコペニアの有病率とその影響

2025.4.1

2025/4/1公開 著者:茂木幹雄(愛知医科大学栄養治療支援センター・糖尿病内科)

当院でのフレイル外来の意義

日本では高齢化が進み、2024年時点で65歳以上の高齢者が総人口の29.3%を占めており、今後も増加すると予測されている。このような背景のもと、サルコペニア(加齢に伴う骨格筋量および筋力の低下)は、高齢者の転倒や要介護状態のリスクを高める要因として重要視されている。特に糖尿病患者は、高血糖やインスリン抵抗性が筋肉量や筋力の低下を引き起こし、サルコペニア発症リスクが高いことが報告されている。

糖尿病患者におけるサルコペニアの有病率に関して、Shafieeら(2017)のメタアナリシスでは、糖尿病患者のサルコペニア有病率は約10%と推定されている¹。また、日本の久山町研究では、65歳以上の住民1,400人を対象にした調査で、サルコペニアを有する者は非サルコペニア者と比較して死亡リスクが高いことが示されている²。さらに、サルコペニアは認知症の発症リスクとも関連があると報告されており、サルコペニア群では認知症を有する割合が有意に高い(オッズ比1.90、95%信頼区間1.06-3.44)とされている²。

一方、都市部在住の高齢者を対象とした順天堂大学の研究では、糖尿病患者では特にサルコペニアリスクが高く、日常生活機能の低下と関連することが示唆されている³。また、久山町研究において「ダイナペニック肥満(肥満でありながら筋力が低下した状態)」が心血管疾患(CVD)発症の独立したリスク因子であることが24年間の縦断解析で明らかになった²。このことから、糖尿病患者における筋肉量の維持や筋力低下の予防が、健康寿命延伸の観点からも重要であることがわかる。

以上のような先行研究の結果を踏まえると、糖尿病患者におけるサルコペニアは、要介護状態や認知症、心血管疾患と密接に関連し、健康リスクを大きく増加させることが示唆される。したがって、糖尿病患者のサルコペニアを早期に診断し、適切な介入を行うことが、公衆衛生および医療経済的にも極めて重要である。


フレイル外来で行う評価とその意義

フレイル外来では、身体機能、栄養状態、食機能、生活機能、認知機能、ポリファーマシーを評価し、総合的な視点からフレイルの早期発見と予防を行います。
早期発見・予防 フレイルは早期に介入すれば改善可能です。身体機能・栄養・認知・社会的側面から総合的に評価することで、適切な介入策を提案できます。
転倒や要介護状態のリスク軽減 歩行速度や握力を測定し、適切な運動・リハビリを推奨することで転倒リスクを減少させます。
低栄養予防・食生活改善 食事の質や摂取状況を評価し、適切な栄養管理を行うことで筋力維持を促進します。
認知症・うつの早期発見 認知機能や心理的側面を評価することで、認知症やうつの予兆を見逃さず、適切なサポートを提供できます。
生活の質(QOL)の向上 フレイルを予防・改善することで、健康寿命を延ばし、より自立した生活を送ることが可能になります。

フレイル外来を受診することで、高齢者の健康維持・生活の質向上につながるだけでなく、介護が必要になる時期を遅らせることができます。


参考文献

  1. Shafiee, G., et al. (2017). Prevalence of sarcopenia in the world: A systematic review and meta-analysis of general population studies. Journal of Diabetes & Metabolic Disorders, 16(1), 21.
  2. 久山町研究 (2012). 高齢者におけるサルコペニアと死亡率・認知症の関連. 日本公衆衛生雑誌, 59(5), 292-300.
  3. Someya, Y., et al. (2022). Sarcopenic obesity is associated with cognitive impairment in community-dwelling older adults: the Bunkyo Health Study. Clinical Nutrition, 41(5), 1046-1051.

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