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社会的孤立と栄養

2025.12.12

著者:宇野千晴(名古屋学芸大学管理栄養学部)

1.はじめに

社会的孤立とは、「人とのつながりが少なくなること」を指します。家族や友人と話す機会が減ったり、地域の人との関わりがなくなったりする状態です。特に高齢になると、生活環境の変化や地域のつながりの弱まりによって、孤立する人が増えています。

社会的に孤立すると、気分が落ち込みやすくなったり、認知機能が低下したり、要介護状態になるリスクが高くなったりすることが分かっています1)。そのなかでも重要なのが「栄養」との関係です。孤立すると食生活が乱れやすくなり、低栄養や筋力低下(サルコペニア)、フレイルにつながることが多くの研究で示されています2)。 本稿では、孤立が食生活に及ぼす影響とその背景、支援の方向性について説明します。

図. 社会的孤立と栄養と健康状態

2.社会的孤立とは

社会的孤立は「他者とのつながりが少ない状態」をいい、一人暮らしだから孤立、というわけではなく、

・ 会話する相手がいない
・ 相談できる人がいない
・ 地域の付き合いがほとんどない   といった特徴があります3)

「孤独(さみしい気持ち)」とは少し違い、孤立は客観的なつながりの少なさ、孤独は主観的な感情を指します4)。日本では、65歳以上の約15%が社会的孤立にあると言われ、特に男性のひとり暮らしで多いと報告されています5)

3.社会的孤立が栄養に及ぼす影響

3.1 食の意欲が落ちやすくなる

人は誰かと食卓を囲むことで、食事が楽しく感じられ、自然と食べる量も増えます。しかし、孤立状態ではそうした「食べる楽しさ」が失われ、

・ 食欲がわかない
・ 作る気がしない 
・ なんとなく簡単なもので済ませてしまう という状態になりやすくなります。

その結果、コンビニ食品、インスタント食品、冷凍食品など、手間のかからない食品に偏りやすくなります。便利ではありますが、それだけでは栄養が偏り、たんぱく質や必要な栄養素が不足しやすくなります6)

特に、「孤食(ひとりで食べること)」が続くと、

・ 食事量が減少しやすい
・ 食品数や料理数が少なくなる
・ 調理を省略しやすく、栄養密度が低下する
・ 食事リズムが乱れやすい

といった影響が積み重なり、低栄養やフレイルにつながることが報告されています⁷)

3.2 食事の質が下がりやすい

「自分だけだから適当でいい」「誰にも見られていないから簡単でいい」という気持ちから、調理を省く人が増えます。加工食品や中食に頼る機会が増えると、主食(ご飯、パン、麺類)に偏り、たんぱく質や野菜が不足しやすくなります。日本の大規模縦断研究では、社会的に孤立している高齢者は、孤立していない高齢者に比べて、低栄養リスクが約2倍高いことが示されています。また、週に1回以上誰かと食事をしている人は、いつも一人で食べる人に比べ、たんぱく質やエネルギーの摂取量が多いことも明らかになっています8

3.3 身体機能・経済的な影響

孤立している高齢者は、外出する機会が減り、買い物や調理が難しくなることも少なくありません。また、地域の支援制度を利用していない人も多く、経済的な困難と孤立が重なると、必要な食品を十分に確保できないという悪循環に陥ります。これらの要因が積み重なると、慢性的な低栄養状態につながりやすくなります。

4.社会的孤立と低栄養・フレイルの関係

多くの研究で、社会的孤立と低栄養・フレイルには強い関係があることが報告されています⁸)。孤立した高齢者は非孤立の高齢者に比べて低栄養リスクが約2倍高く、体重減少、骨格筋量の低下、握力の低下など、フレイル指標が悪化しやすいことが明らかになっています9)。欧米の研究でも、社会的孤立は低BMI、サルコペニア、死亡率の上昇と関連しており10)、世界的にも共通する健康リスクであることが確認されています。

また、孤立はストレスを生みやすく、ストレスホルモン(コルチゾール)が増えることで、食欲や代謝にも影響が出ることが分かっています11)。その結果、「孤立→ストレス→食生活の変化→低栄養→筋力低下・フレイル」という悪循環が起こりやすくなります。

5.介入と支援の方向性

5.1 共食の推進

誰かと一緒に食べる「共食(きょうしょく)」は、栄養改善に大きな効果があるとされています。地域の食堂や高齢者サロン、通いの場などで一緒に食事をする機会をつくると、食事量の増加や、生活の満足度(QOL)の向上がみられることが分かっています。実際に、週に1回以上こうした場で食事をしている高齢者は、いつも一人で食べる人よりも、たんぱく質をしっかり食べられるという研究もあります12)。また、人と話しながら食べることで、食欲がわきやすくなったり、食べ物がおいしく感じられたり、気持ちが安定したりすることも知られています。

5.2 配食・訪問支援

独居高齢者には、配食サービスや訪問支援も効果的です。これらは食事が届くだけでなく、配達員とのちょっとした会話や安否確認が孤立を防ぐ助けになります。管理栄養士が介入し、嗜好や咀嚼・嚥下機能に応じて個別に献立を調整することで、低栄養の予防効果が高まることも報告されています13)

5.3 地域コミュニティと多職種の連携

保健師、社会福祉士、管理栄養士などが情報共有しながら支援することで、孤立リスクのある高齢者を早期に把握し、適切な支援につなげることが重要です。地域包括支援センターによるアウトリーチや訪問栄養指導は、孤立防止と栄養支援の両方を支える効果的な仕組みです14)

5.4 デジタル技術の活用

オンライン食事会や遠隔(オンライン)栄養相談など、デジタル技術を使った新しい形のつながりも広がっています。コロナ禍以降、離れていても人とつながる方法として注目されています15)

6.今後の課題

社会的孤立には、心理・経済・身体機能・地域構造など複数の要因が絡みます。孤立を早期に見つけ、適切な支援につなげる仕組みづくりが必要です。孤立の状態を把握するためには、「友人や家族とのつながりの数」や「地域での交流の頻度」を確認するチェック項目(例:Lubben Social Network Scaleや基本チェックリストの社会項目など)が役立ちます。こうした評価とあわせて、栄養状態の変化を継続的に見守ることが必要です。

また、孤立の深さに応じて支援の方法を分けることも重要です。

  • 一次予防:孤立を未然に防ぐための「共食(人と一緒に食べる機会)」の推進
    • 二次予防:孤立の心配がある人への訪問支援や見守り
    • 三次予防:すでに大きな孤立問題を抱える人に対する、専門職による集中的な支援

 このように段階に応じた支援を組み立てることで、効果的なサポートが可能になります。

孤立を“個人の問題”ではなく、地域全体で向き合うべき「社会的な健康課題」として位置づけ、医療・福祉・地域が協力して支える体制を整えていくことが、これからの大きな課題です。

7.おわりに

社会的孤立は、栄養状態を悪化させ、低栄養やフレイルを進める重要な健康問題です。しかし、孤立は「防ぐこと」「減らすこと」ができます。食卓は、人とのつながりを取り戻す大切な場所です。栄養と社会的つながりの両方を支えることで、健康寿命の延伸につながります。

参考文献

1)Holt-Lunstad J, et al. Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Med. 2010;7(7):e1000316.

2)Yang J, et al. The association of living alone and social isolation with sarcopenia: A systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2023;91:102043.

3)Cornwell EY, Waite LJ. Social disconnectedness, perceived isolation, and health among older adults. J Health Soc Behav. 2009 Mar;50(1):31-48.

4)村田伸ら:高齢者における社会的孤立と健康指標との関連,日本公衆衛生雑誌,2019;66(3):152–161.

5)内閣府:令和6年版高齢社会白書.2024.

6)Tani Y, et al. Combined effects of eating alone and living alone on unhealthy dietary behaviors, obesity and underweight in older Japanese adults: Results of the JAGES. Appetite. 2015;95:1-8.

7)久保田ら:孤食とフレイルとの関連,日本栄養・食糧学会誌,2021;74(5):239–248.

8) Tomioka K, et al. Association between stairs in the home and instrumental activities of daily living among community-dwelling older adults. BMC Geriatr. 2018; 18(1):132.

9) Saito M, et al. Cross-national comparison of social isolation and mortality among older adults: A 10-year follow-up study in Japan and England. Geriatr Gerontol Int. 2021;21(2):209-214.

10) Steptoe A, et al. Social isolation, loneliness, and all-cause mortality in older men and women. Proc Natl Acad Sci USA. 2013;110(15):5797-801.

11) Hawkley LC, Cacioppo JT. Loneliness matters: a theoretical and empirical review of consequences and mechanisms. Ann Behav Med. 2010;40(2):218-27.

12) Minagawa-Watanabe Y, et al. The Association of Dining Companionship with Energy and Nutrient Intake Among Community-Dwelling Japanese Older Adults. Nutrients. 2024;17(1):37.

13) 山田ら:配食サービス利用高齢者における栄養状態の改善効果,老年栄養学会誌,2020;22(2):101–108.

14) 厚生労働省:地域包括ケアシステム推進ガイドライン.2021.

15)Pereira-Castro MR, et al. Digital Forms of Commensality in the 21st Century: A Scoping Review. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(24):16734.


本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています

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