2025/3/31公開 著者:若林秀隆
リハビリテーション栄養とは、リハビリテーションと栄養の両面からアプローチすることで、患者の生活機能、QOL(生活の質)、ウェルビーイング(幸福感)を最大限に引き出すことを目的としています。病気の治療も重要ですが、それ以上に、病気を抱える患者さんの生活の質の向上に重点を置いています。特に高齢者、要介護者、障害者においては、低栄養やサルコペニア(筋肉量の減少)が見られることが多く、このような場合、リハビリテーションだけ、あるいは栄養管理だけでは、生活機能、QOL、ウェルビーイングを十分に高めることは困難です。リハビリテーション栄養では、「リハビリテーションの視点からの栄養管理」と「栄養管理の視点からのリハビリテーション」という、相互的な視点が不可欠です。
質の高いリハビリテーション栄養の実践には、リハビリテーション栄養ケアプロセスを活用することが有効です。このプロセスは、アセスメント・診断推論、診断、目標設定、介入、モニタリングの5つのステップから構成されています。特に、食欲不振、体重減少、サルコペニアの原因を診断推論し、栄養管理の目標を丁寧に設定することが、リハビリテーション栄養の質を高める上で重要です。食欲不振や体重減少の診断推論では、心理的な側面、薬剤の影響、栄養状態(ビタミンB1欠乏、ナイアシン欠乏、カヘキシアなど)を、全ての患者において考慮し、見落とさないように注意する必要があります。カヘキシアとは、体重減少、炎症状態、食欲不振を伴う慢性疾患に関連した代謝異常のことです。2023年には、アジアカヘキシアワーキンググループ(AWGC)によって、カヘキシアの診断基準が作成されました(表1参照)1)。
表1 AWGCのカヘキシア診断基準1)
以下の2つは必要条件 ・悪液質の原因疾患の存在(がん、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎不全、慢性呼吸不全、慢性肝不全、膠原病、制御できていない慢性感染症) ・3-6ヶ月で2%以上の体重減少もしくはBMI21kg/m2未満 |
その上で以下の3つのうち1つ以上に該当 ①主観的症状:食欲不振 ②客観的指標:握力低下(男性28kg未満、女性18kg未満) ③バイオマーカー:CRP >0.5mg/dL |
日本リハビリテーション病院・施設協会は、「地域リハビリテーションとは、障害を持つ子どもや成人・高齢者、そしてその家族が、住み慣れた地域で、生涯にわたり安全に、その人らしい充実した生活を送れるように、保健・医療・福祉・介護、そして地域住民を含む生活に関わる全ての人々や機関・組織が、リハビリテーションの視点から協力して行う活動の総称である」と定義しています。このような広義のリハビリテーションには、栄養管理も含まれます。
リハビリテーション栄養では、体重の目標を設定し、1日のエネルギー必要量を600~3500kcalと幅広く設定し、意図的に体重の増減を目指す積極的な栄養管理を行います。これは、1日のエネルギー消費量を計算し、それをそのまま1日のエネルギー必要量としていた従来の栄養管理とは異なります。1日のエネルギー必要量は、「1日のエネルギー消費量±体重増減のための1日エネルギー蓄積量」で計算されます。しかし、リハビリテーション栄養において、体重の目標はあくまで中間目標です。体重の目標を達成することで、生活機能、QOL、ウェルビーイングをさらに高めることが、リハビリテーション栄養の最終的な目標です。
また、心理面のケアもリハビリテーション栄養において重要です。身体のリハビリテーションを必要とする患者さんの中には、うつを抱えている方が少なくありません。実際、食欲不振や体重減少の一般的な原因の一つにうつがあります。うつ病は、身体面、認知面、社会面に悪影響を及ぼすため、うつを発見し改善することで、心理面だけでなく、身体面、認知面、社会面の改善も期待できます。さらに、食欲不振や体重減少の原因がうつであれば、食欲の改善や体重増加も期待できます。そのため、心理面のリハビリテーション栄養は非常に重要です。
日本リハビリテーション栄養学会は、心理面のリハビリテーション栄養に関するポジションペーパーを発表しています2)。うつに対しては、薬物療法や心理療法(認知行動療法、マインドフルネスなど)だけでなく、運動療法、栄養療法、ガーデニングや森林浴、音楽療法、芸術療法、笑いやユーモア、ラベンダーのアロマセラピー、鍼治療なども有効であり、リハビリテーション栄養に取り入れることが推奨されます。身体面、心理面、社会面、認知面など多方面から包括的に介入して、生活機能、QOL、ウェルビーイングをできる限り高めていきましょう。
文献
1) Arai H, et al.: Diagnosis and outcomes of cachexia in Asia: Working Consensus Report from the Asian Working Group for Cachexia. J Cachexia Sarcopenia Muscle, 2023;14:1949-1958.
2) 若林秀隆, 他: 心理面のリハビリテーション栄養:日本リハビリテーション栄養学会によるポジションペーパー. リハビリテーション栄養8:83-92, 2024.