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心不全高齢者の食べる問題

2025.3.31

2025/3/31公開 著者:鈴木瑞恵

「心不全高齢者の食べる問題」と聞くと、一般には塩分制限などの食事療法や易疲労性による食思不振がまず思い浮かぶでしょうか。最近では、心不全患者の食べる問題として摂食嚥下障害が注目されています。一見すると「心不全で摂食嚥下障害?」と結びつきにくいかもしれません。高齢社会を迎えた本邦では、老年症候群の1つであるサルコペニアを背景とした摂食嚥下障害が増えており、心不全高齢者でも生じることが分かってきています。

■摂食嚥下障害とは

摂食嚥下とは食べ物や飲み物を認知し、口に入れて飲み込み胃まで送る一連の流れを指し、先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期の5つに分けられます。(図1) このいずれか、または複数が障害された状態を摂食嚥下障害と呼びます。深刻な高齢化によって摂食嚥下障害患者は増加しており、「食べられない」問題に加えて、低栄養や誤嚥性肺炎、窒息のリスクにもつながることから、摂食嚥下障害の予防・介入は非常に重要となります。

これまで、摂食嚥下障害は脳卒中や神経筋疾患による運動・感覚神経の障害や、頭頸部がんによる器官の喪失をきたすことで生じるとされてきました。しかし、最近では心不全や大腿骨頸部骨折のように、摂食嚥下に直接関わらないような疾患でも摂食嚥下障害を呈することが増えてきています。

図1

図1

■心不全と摂食嚥下障害

では、実際に心不全高齢者で摂食嚥下障害はどのくらい発生しているのでしょうか。私たちは過去の研究論文のレビューを実施し、65歳以上の心不全高齢者を対象に摂食嚥下障害について調査した報告から有病率を算出しました。その結果、入院時に23.6%、退院時に9.4%が摂食嚥下障害を有していたことが明らかとなりました(1)。この有病率は、他の疾患と比べてもそこまで低くないことが分かります。(図2)

図2

心不全高齢者の摂食嚥下障害のリスク因子を見てみると、高齢、炎症、activities of daily living(ADL)の低さ、低エネルギー摂取量、口腔内環境の低下、抗精神病薬の使用、低舌圧が挙げられていました。このうち、高齢、炎症、低ADL、低エネルギー摂取量は、サルコペニアの発生に寄与することが知られています。したがって、心不全高齢者ではサルコペニアが生じており、その結果として摂食嚥下障害を招いている可能性が考えられます。

■サルコペニアと摂食嚥下障害

サルコペニアとは、全身の四肢骨格筋の筋機能の低下を指す病態であり、骨格筋量および筋力の低下を主体とします。サルコペニアは地域で元気に暮らす高齢者の12.9%で認められ、転倒や骨折、死亡のリスク因子とされています(2)。サルコペニアは摂食嚥下障害をもたらす要因として認識されており、「サルコペニアの摂食嚥下障害」として定義され、診断基準も策定されています(図3)(3)

図3

心不全高齢者の摂食嚥下障害は、摂食嚥下に関わる神経の障害や器官の喪失がないにも関わらず生じており、サルコペニアによって摂食嚥下障害が生じていると考えられます。心不全高齢者の摂食嚥下障害に低舌圧が関連しており(4)、これは摂食嚥下関連筋の筋力低下を示すものといえるでしょう。心不全高齢患者のうちサルコペニアを合併している者は55%と多いことから(5)、今後もサルコペニアによる摂食嚥下障害が増加すると考えられます。

■心不全高齢者の摂食嚥下障害への治療・介入

では、心不全高齢者の摂食嚥下障害はどのような治療・介入が有効でしょうか。例えば、Yokotaらの報告では、心不全高齢者に対する運動療法が身体機能と摂食嚥下機能の改善につながったとしており(6)、介入効果を示す重要な知見といえます。また、サルコペニアの摂食嚥下障害は、リハビリテーション・栄養療法・口腔の包括的アプローチが有用であることが示されており(7)、心不全高齢者においても同様の介入効果があると推測されます。

心不全高齢者の摂食嚥下障害は、介入によって改善するのかしないのか?どのような介入が有効なのか?発症からどのような経過をたどるのか?など、研究報告はまだ十分ではありません。しかし、心不全高齢者の食べる問題には食事療法や易疲労性に加え、摂食嚥下機能そのものに低下が生じている可能性を見据えてアプローチをすれば、より早期に、より適切な治療・介入が行えると考えられます。

ここまで、心不全高齢者の食べる問題として、摂食嚥下障害を取り上げました。「ちょっとおかしいな?」と感じた時に、サルコペニア、そして摂食嚥下障害の可能性を疑う、この観点をぜひ日常臨床に活かしていただければと思います。

引用文献

  1. Suzuki M, Saino Y, Nagami S, Ueshima J, Inoue T, Nagano A, et al. Dysphagia development in heart failure patients: A scoping review. Arch Gerontol Geriatr. 2024 Dec;130(105728):105728.
  2. Chen LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, Chou MY, Iijima K, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307 e2.
  3. Mori T, Fujishima I, Wakabayashi H, Oshima F, Itoda M, Kunieda K, et al. Development, reliability, and validity of a diagnostic algorithm for sarcopenic dysphagia. JCSM Clinical Reports. 2017 Jul 1;2(2):1–10.
  4. Yokota J, Takahashi R, Endo R, Chiba T, Sasaki K, Matsushima K. Physical performance and maximum tongue pressure associated with oral intake independence: a retrospective study on hospitalized patients with heart failure. Sci Rep. 2022 Nov 3;12(1):18549.
  5. Zhang Y, Zhang J, Ni W, Yuan X, Zhang H, Li P, et al. Sarcopenia in heart failure: a systematic review and meta-analysis. ESC Heart Fail. 2021 Apr;8(2):1007–17.
  6. Yokota J, Endo R, Takahashi R. Improving physical performance reduces dysphagia via improvement of tongue strength in patients with acute heart failure: a two-wave cross-lagged mediation model analysis. Aging Clin Exp Res. 2023 Oct 18;35(10):2237–46.
  7. Nagano A, Onaka M, Maeda K, Ueshima J, Shimizu A, Ishida Y, et al. Prevalence and characteristics of the course of dysphagia in hospitalized older adults. Nutrients. 2023 Oct 15;15(20):4371.
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