2025/4/7公開 著者:前田圭介
高齢者に限らず、栄養状態の維持は回復の促進、合併症の予防、QOLの向上の観点から極めて重要です。しかしながら、食事摂取量の低下は高齢者を中心に広く見られており、栄養不良のリスクを高めています。近年では、看護師を含む医療チームによる多職種連携の中で、食事支援の質向上が図られています。
食事介助の腕を磨く
食支援スキルの質が、患者の栄養摂取量や栄養状態の改善に直結することが報告されています。Naganoらは、介助の質を評価する指標として「Feeding Assistance Skill Score(FASS)」を開発し、信頼性と妥当性を検証しました[1]。このスコアは、介助中のポジショニング、声かけ、安全な摂取動作の促進などの観察項目を含み、一定の教育を受けた介助者による食事支援が、患者の摂取量や安全性を高めることを示しています。
ONSのエビデンス
経口栄養補助食品(oral nutritional supplements: ONS)は、特に高齢者や慢性疾患を有する入院患者において、エネルギーおよびタンパク質摂取量の向上に有効です。Kurmannらは、「MedPass法」によるONS投与が、従来法と比較して必要な栄養摂取量のカバー率を向上させることを報告しました[2]。また、Wuらの研究では、嚥下調整食を摂取する高齢者において、ONSの併用がエネルギーおよびタンパク質摂取量の有意な増加と関連していました[3]。一方で、ONSの摂取を患者にとって「医療的介入」としてではなく「食事の延長」として捉えてもらうための工夫も必要です。Brindisiらの研究では、介護者と患者の間でONSに対する認識が大きく異なっており、このギャップがアドヒアランスの低下に寄与していると報告されています[4]。
食環境と提供方法の工夫

食事内容の改善も重要です。Ingadottirらは、病院メニューのエネルギー密度を高めることで、食事からのエネルギー摂取量が有意に増加したことを示しましたが、ONSや持ち込み食品の使用が減少したことで、総摂取量は期待ほど増加しませんでした[5]。この結果は、提供するメニューの工夫とともに、ONSや補助食品との併用戦略の最適化が必要であることを示唆しています。また、看護師主導のミールタイム介入バンドルの導入により、患者の平均摂取量が増加したことが報告されています[6]。このような組織的取り組みにより、栄養摂取量の底上げが可能になります。
デジタルツールと個別化支援の展望
近年では、個別栄養指導を支援するeHealthツールの活用も進んでいます。TerpらによるFood’n’Goシステムを用いた介入では、教育的アプローチと自己モニタリング機能を通じて、食事摂取量が有意に改善しました[7]。また、スマートオーダーシステムとアラカルトメニューの導入は、患者の選択意欲を高めると同時に、摂取量の向上にもつながっています[8]。
おわりに
患者の食事摂取量を挙げるには、単なる栄養補助食品の導入に留まらず、支援スキル、提供環境、食事内容、教育介入、デジタル技術など、多面的な工夫が求められます。医療チーム全体でのアプローチと患者個々の状況に応じた柔軟な対応が、今後の栄養ケアの質をさらに高めていく鍵となります。
参考文献
- Nagano A, et al. Feeding Assistance Skill Score: development and verification of reliability and validity. Eur Geriatr Med. 2024;15(5):1437-1445. DOI: 10.1007/s41999-024-01016-8.
- Kurmann S, et al. MEDPass versus conventional administration of oral nutritional supplements – A randomized controlled trial comparing coverage of energy and protein requirements. Clin Nutr. 2022;42(2):108-115. DOI: 10.1016/j.clnu.2022.11.015.
- Wu XS, et al. A Comparison of Dietary Intake and Nutritional Status between Aged Care Residents Consuming Texture-Modified Diets with and without Oral Nutritional Supplements. Nutrients. 2022;14(3):669. DOI: 10.3390/nu14030669.
- Brindisi MC, et al. Delivery of oral nutrition supplement in hospital: Evaluation of professional practices in evaluation of nutritional status and representations of ONS by the caregivers and patients. Clin Nutr ESPEN. 2020;35:85-89. DOI: 10.1016/j.clnesp.2019.11.005.
- Ingadottir AR, et al. Energy- and protein intake of surgical patients after the implementation of energy dense hospital menus. Clin Nutr ESPEN. 2015;10(3):e121-e126. DOI: 10.1016/j.clnesp.2015.03.081.
- Zhang D, et al. Improving nutrition care and diet intake for hospitalised older people at risk of malnutrition through a nurse-driven mealtime assistance bundle. Int J Older People Nurs. 2023;e12590. DOI: 10.1111/opn.12590.
- Terp R, et al. An educative nutritional intervention supporting older hospital patients to eat sufficiently using eHealth: a mixed methods feasibility and pilot study. BMC Geriatr. 2024;24:85. DOI: 10.1186/s12877-023-04582-x.
- Svendsen J, et al. Development of an Electronic Food Ordering System and a la Carte Menu: Enhancing Patient Involvement in Nutritional Care. Clin Nutr ESPEN. 2024;57:225-234. DOI: 10.1016/j.clnesp.2024.01.014.