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消化器癌におけるサルコペニア肥満診断と有病率

2025.4.15

2025/4/15公開 著者:斎野容子

近年、がん患者における体組成変化が注目されており、術後合併症や生存率などの短期・長期予後にも関連することが報告されています。

サルコペニア肥満は、サルコペニアと肥満を併せ持つ病態であり、がん患者における有病率は約20%1)と報告されていますが、研究によって診断方法が異なるため、有病率にはばらつきがあります。例えば大腸癌では、コンピュータ断層撮影(CT)による骨格筋指数(SMI)を用いたサルコペニアと、Body mass index(BMI)やCTによる内臓脂肪面積(VFA)を用いた肥満の組み合わせでサルコペニア肥満を診断している研究が多く、筋力や生体電気インピーダンス(BIA)法などの体組成分析を用いて診断している研究は少ないことが報告されています2)。また、サルコペニア肥満の有病率は大腸癌全体で15%(95%信頼区間,11-21%)、待機的手術で18%(95%信頼区間,12-25%)でした2)。日常診療の場においては、握力などの筋力測定やBIA法による体組成測定結果を用いることで、CTを用いたSMIやVFAを算出するよりも早期にサルコペニア肥満を発見することができるかもしれません。また、術前からサルコペニア肥満に対して栄養サポートや運動介入を実施することで、短期・長期予後の改善につながる可能性も考えられます。

サルコペニア肥満については以前から診断基準の統一が検討されており、2022年に欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)と欧州肥満学会(EASO)がサルコペニア肥満診断基準を発表しました3)。ESPEN/EASOのサルコペニア診断は、①スクリーニング、②診断、③ステージングの3ステップで構成されています(図1)。診断に用いる握力、体脂肪率などのカットオフ値は複数提案されているため、対象とする人種や集団に合わせたカットオフ値を用いて診断することが重要です。日本においては、2024年に日本肥満学会(JASSO)と日本サルコペニア・フレイル学会(JASF)が日本人の特徴を考慮したサルコペニア肥満診断基準(JWGSO基準)を発表しました4)。JWGSO基準においても、ESPEN/EASO基準と同様に、サルコペニア肥満は①スクリーニング、②診断、③ステージングの3ステップで構成されています(図2)。

消化器癌領域では、ESPEN/EASO基準やJWGSO基準を用いたサルコペニア肥満に関する研究はまだ少ないため、これらの診断基準を用いた研究がより多く実施され、短期・長期予後への影響についての検討が進むことが望まれます。

図1 ESPEN/EASOのサルコペニア肥満診断基準3)

文献3)を参考に作成

図2 JWGSOのサルコペニア肥満診断基準4)

文献4)を参考に作成

【参考文献】

  1. Gao Q, Hu K, Gao J, Shang Y, et al. Prevalence and prognostic value of sarcopenic obesity in patients with cancer: A systematic review and meta-analysis. Nutrition. 2022;101:111704.
  2. Saino Y, Kawase F, Nagano A, et al. Diagnosis and prevalence of sarcopenic obesity in patients with colorectal cancer: A scoping review. Clin Nutr. 2023;42(9):1595-1601.
  3. Donini LM, Busetto L, Bischoff SC, et al. Definition and Diagnostic Criteria for Sarcopenic Obesity: ESPEN and EASO Consensus Statement. Obes Facts. 2022;15(3):321-335.
  4. Ishii K, Ogawa W, Kimura Y, et al. Diagnosis of sarcopenic obesity in Japan: Consensus statement of the Japanese Working Group on Sarcopenic Obesity. Geriatr Gerontol Int. 2024;24(10):997-1000.
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