2025/3/29公開 著者:太田梨江
握力測定は、簡便かつ有用な筋力評価手法として広く利用されています。特に、高齢者の筋力低下(サルコペニア)の指標としても用いられています。握力の低下は日常生活動作(ADL)の低下、転倒リスクの増加、死亡率の上昇と関連しています(1)。しかし、握力測定の精度にはいくつかの要因が影響を与えることがあります。
測定機器の違いによる影響
握力測定機器は一般的にSmedley(バネ式)握力計とJAMAR(油圧式)握力計(図1)が広く使用されており、特に日本ではSmedley握力計が多くの学校や施設で使用されています。いずれも信頼性は高いですが、機器によって測定値に差異が生じます(4)。なかでも、手の大きさや形状に合わせて握力計のグリップ位置が調整できる機器は、より正確な測定が可能と考えられます。また、さまざまな握力計がある中で、デジタル表示の握力計は0.1kg単位まで正確に評価ができることが長所とされます。

竹井機器工業株式会社ホームページより(https://www.takei-si.co.jp/products/1208/)
右:JAMAR(油圧式)握力計
Charder Medicalホームページより(https://www.chardermedical.com/ja/medical-dynamometer/MG4800.html)
姿勢による握力測定値の違い
握力測定において、被験者の姿勢が結果に影響を与えることがあります。例えば、立位と座位での測定では、一般に立位の方が高い値を示す傾向があります(3)。また、肘の角度も影響を及ぼし、Smedley握力計使用時では肘を伸展させた姿勢が最も高い握力値を示すとする報告もあります(5)。
アジアサルコペニアワーキンググループのAWGS2019コンセンサスでは、握力測定の方法について詳細な推奨事項が示されています(2)。
- 使用機器はSmedley握力計やJAMAR握力計を推奨
- Smedley握力計使用時は立位で肘を完全に伸ばした状態で測定
- Jamar握力計使用時は座位で肘を90度屈曲した状態で測定
- 立位が困難な場合は座位で測定可
測定環境の影響
測定環境も握力測定の精度に影響を及ぼす要因の一つです。例えば、手首の角度、測定回数、測定間隔(疲労)、測定時の手の温度や湿度、リラックスした状態かどうかなども結果に影響を与える可能性があります(4)。さらに、測定者の声掛けやサポートの方法も、被験者のパフォーマンスに影響を及ぼすことがあります。
まとめ
握力測定は筋力や健康状態の評価において重要な指標ですが、さまざまな要因によって結果が変動する可能性があります。使用する機器の種類や設定、被験者の姿勢、測定環境、さらには測定者のトレーニングなどの要素を可能な限り統一することで、握力測定の精度が高まることが期待されます。
参考文献
1.Roberts HC, Denison HJ, Martin HJ, Patel HP, Syddall H, Cooper C, Sayer AA. (2011). A review of the measurement of grip strength in clinical and epidemiological studies: towards a standardized approach. Age Ageing, 40(4), 423-429.
2.Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. (2020). Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 consensus update on sarcopenia diagnosis and treatment. J Am Med Dir Assoc, 21(1), e2-e8.
3.Richards LG, Olson BL, Palmiter-Thomas P. (1999). How forearm position affects grip strength. Am J Occup Ther, 53(2), 133-138.
4. 永井栄一,保健医療学雑誌12巻1号, pp75-82(2021). 握力測定における測定法と測定条件の影響
5. Szaflik, P., Zadoń, H., Michnik, R., & Nowakowska-Lipiec, K. (2025). Handgrip Strength as an Indicator of Overall Strength and Functional Performance—Systematic Review. Applied Sciences.