老年栄養ドットコム

経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)の定義

2025.8.19

2025/8/19公開 著者:石田 優利亜

「経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)」は、患者の栄養管理において非常に重要な役割を果たす栄養療法です。
しかし、この用語は文献やガイドラインによって異なる定義がなされており、その違いを明確に理解することが非常に重要です。


1. ESPENガイドライン(2006年)の定義

2006年にESPENが発表した「経腸栄養に関するESPENガイドライン」※1において、「経腸栄養」の定義が示されています(図1)。

このガイドラインでは、「経腸栄養(EN)」は、1999年3月25日の欧州委員会指令1999/21/ECに基づく「特別な医療目的の食事(dietary foods for special medical purposes)」を使用するすべての栄養補給法を指すとされています。
この定義では、栄養補給の経路に関わらず、経口栄養補助食品(Oral Nutritional Supplements, ONS)や、経鼻胃管(nasogastric tube)、経鼻腸管(nasoenteral tube)、経皮的栄養チューブ(percutaneous tube)(例えば、胃瘻など)をすべて含みます。また、ブレンダライズドフード(blenderized food)や、特定の栄養ニーズに応じて工業的に製造された製品もこのカテゴリーに含まれます。

図1.2006年ESPENガイドラインにおける経腸栄養の定義

経腸栄養 (Enteral Nutrition, EN) 経口栄養療法 (Oral nutrition therapy) 経管栄養 (Enteral tube feeding ) 経静脈栄養 (Parenteral nutrition, PN)

2. ESPENガイドライン(2017年)の定義

一方、2017年にESPENが発表した「臨床栄養の定義と用語に関するESPENガイドライン」※2では、「経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)」に対する定義が一新されました(図2)。

このガイドラインでは、「経口栄養療法(Oral nutrition therapy)」、「経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)」、および「経静脈栄養(Parenteral nutrition, PN)」が区別され、それぞれが「医療栄養療法(Medical Nutrition Therapy)」の一部として位置づけられています。この定義において、「経管栄養(Enteral tube feeding)」と「経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)」が同義語として使用されています。ここで言う「経管栄養」は、口腔から遠位の腸管にチューブまたはストーマを介して栄養を投与する方法を指しています。

図2.2017年ESPENガイドラインにおける経腸栄養の定義

医療栄養 療法 (Medical Nutrition Therapy) 経口栄養療法 (Oral nutrition therapy) 経腸栄養 ( Enteral Nutrition, EN) 経管栄養 (Enteral tube feeding ) 経静脈栄養 (Parenteral nutrition, PN)

3. 定義の違いの重要性

このように、「経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)」という用語は文献によって異なる意味を持つ場合があり、どちらの方法を指しているのかが不明確になることがあります。したがって、栄養管理を行う際には、これらの用語をより具体的に区別して使用することが重要です。「経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)」という用語を使用する場合は、まず何を指すのか定義していく必要があります。

4. その他の医療栄養療法の定義

医療栄養療法には、経腸栄養以外にもさまざまな方法があります。※2

これらの定義は以下のとおりです。

・医療栄養療法 (Medical Nutrition Therapy)

医療栄養療法は、経口栄養療法 (Oral Nutritional Therapy)、経管栄養 (Enteral Tube Feeding)、および経静脈栄養 (Parenteral Nutrition) を含む栄養療法の総称。従来「人工栄養(artificial nutrition)」と呼ばれていたが、これを「医療栄養療法(Medical Nutrition Therapy)」と呼ぶことが推奨されている。

・経口栄養療法 (Oral Nutrition Therapy)

主に経口栄養補助食品 (ONS) を使用して行われる栄養療法。ONSはエネルギーと栄養が豊富に含まれており、飲料、クリーム、または粉末形態で提供される。

・経管栄養 (Enteral Tube Feeding) 同義語:経腸栄養(Enteral Nutrition, EN)

口腔から遠位の腸管にチューブまたはストーマを介して栄養を投与する栄養療法。これには経鼻胃管、経鼻腸管、経皮的胃瘻 (PEG) などが含まれる。

・完全経管栄養 (Total Enteral Tube Feeding, TEN)

経口摂取や経静脈栄養なしで、すべての栄養が経腸チューブを介して供給される栄養療法。

・補助的経管栄養 (Supplemental Enteral Tube Feeding)

経口摂取だけでは十分な栄養目標に達しない患者に対して、経腸チューブで補助的に栄養を提供する栄養療法。

・在宅経管栄養 (Home Enteral Nutrition, HEN)

病院外で経腸栄養を行う療法。完全経腸栄養または補助的経腸栄養として提供される。

・経静脈栄養 (Parenteral Nutrition, PN)

アミノ酸、グルコース、脂質、ビタミン、電解質などを静脈内で投与する栄養療法。

・完全経静脈栄養 (Total Parenteral Nutrition, TPN) 同義語:排他的経静脈栄養 (Exclusive Parenteral Nutrition)

患者の完全な栄養ニーズ(すべての三大栄養素と微量栄養素)が経静脈栄養で補われ、他の経路で栄養が投与されない栄養療法。

・補助的経静脈栄養 (Supplemental Parenteral Nutrition, SPN) 同義語:部分的経静脈栄養 (Partial Parenteral Nutrition)

経静脈栄養に加えて、経口または経腸経路で栄養が追加的に提供される栄養療法。

・在宅経静脈栄養 (Home Parenteral Nutrition, HPN)

病院外で経静脈栄養を行う栄養療法。

・皮下輸液療法 (Subcutaneous Fluid Therapy)

皮下注射を通じて水分を供給する特殊な栄養療法。静脈経路が使用できない場合に、限られた量の栄養素(ブドウ糖、アミノ酸)を補充することが可能。

・透析中経静脈栄養 (Intra-dialytic Parenteral Nutrition, IDPN)

透析回路を通じて静脈内で栄養を投与する栄養療法。透析セッション中に周期的に行われる。

引用文献

※1 Lochs H, Allison SP, Meier R, Pirlich M, Kondrup J, Schneider S, van den Berghe G, Pichard C. Introductory to the ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Terminology, definitions and general topics. Clin Nutr. 2006 Apr;25(2):180-6. doi: 10.1016/j.clnu.2006.02.007. Epub 2006 May 11. PMID: 16697086.

※2 Cederholm T, Barazzoni R, Austin P, Ballmer P, Biolo G, Bischoff SC, Compher C, Correia I, Higashiguchi T, Holst M, Jensen GL, Malone A, Muscaritoli M, Nyulasi I, Pirlich M, Rothenberg E, Schindler K, Schneider SM, de van der Schueren MA, Sieber C, Valentini L, Yu JC, Van Gossum A, Singer P. ESPEN guidelines on definitions and terminology of clinical nutrition. Clin Nutr. 2017 Feb;36(1):49-64. doi: 10.1016/j.clnu.2016.09.004. Epub 2016 Sep 14. PMID: 27642056.

関連記事

アジア人向け悪液質診断基準(AWGC2023)

2025.7.31

食欲に影響する薬

2025.7.21

全国調査で判明した嚥下障害患者の栄養管理における実践と科学的根拠のギャップ

2025.7.18