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がん周術期におけるチーム医療

2025.12.10

著者:斎野容子(公益財団法人がん研究会有明病院 栄養管理部)

はじめに

がん治療における栄養療法は、手術療法・化学療法・放射線療法を安全に遂行するための支持療法として、また治療の一環としても重要であることが認識されています。がんによる全身性の炎症や食欲不振に加えて、治療に伴う合併症や副作用が発生すると、治療の継続が難しくなる場合があります。食欲不振によって体重減少が生じると、低栄養や悪液質の発生につながる可能性も考えられます。このため、治療が始まる前から、患者さんの病状や病態にあわせた多職種による多面的なサポートを積極的に実施することが理想的です。

がん周術期におけるチーム医療

がんの手術療法は、治療効果が高い一方で、患者さんの身体への侵襲が大きくなります。上部消化管がんでは、腫瘍に伴う異化亢進に加えて、狭窄や出血などにより経口摂取が困難になり、術前からサルコペニアや体重減少を認めることがあります1)。術前のサルコペニアは、術後合併症の独立したリスク因子であり、予後を悪化させることが報告されています2)。また、近年がん患者さんの高齢化も進んでおり、高齢者では若年者と比較して術後の身体機能の回復が遅れることが報告されています3)。このため、がん周術期の術後回復を促進するためには、医師、歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士などからなる多職種チームによって、術前から多面的な介入を開始することが重要です。なかでも、栄養摂取の早期自立は術後回復促進のための重要な要素であり、侵襲の少ない手術の選択や適切な麻酔管理に加えて、口腔ケア、リハビリテーション、栄養サポートなどが重要な役割を果たします4)

図1. がん周術期管理チームの構成

口腔ケア

歯科では、経口摂取を支援し、口腔内環境に起因する肺炎などの術後合併症を予防することを目的として、術前から口腔ケアを実施します。まず、口腔内を清潔に保つことの重要性について患者さんに説明して動機付けを行ったうえで、セルフケア指導、口腔内清掃、歯周病やう歯の治療などを行います。高齢者では、術前に口腔内環境と嚥下機能のスクリーニング・アセスメントを実施し、周術期の安全な経口摂取が可能となるように配慮することも重要です。

リハビリテーション

リハビリテーションは、術後合併症の予防や身体機能の早期自立を目的として実施します。術前のリハビリテーションでは、筋力や身体機能を評価し、呼吸機能訓練や全身運動について指導します。人工呼吸器管理を必要とする外科手術では、術後に肺炎などの呼吸器合併症が生じることがあるため、高齢者などリスクが高い患者では、術前から呼吸機能訓練を実施することが重要です。また、全身の筋肉量を維持するために、四肢のレジスタンストレーニングや持久力トレーニングなども同時に実施します。呼吸機能訓練は術後も継続し、病棟内歩行やリハビリテーション室でのエルゴメーターを使用した全身運動なども段階的に進めていきます。

近年、術前に身体機能を強化して術後合併症を予防する取り組みとして、プレハビリテーションという概念が普及しています。プレハビリテーションは、運動療法・栄養療法・心理カウンセリングなどを含む包括的な概念であり、チーム医療の一環として捉えることもできます。

栄養サポート

管理栄養士による栄養食事指導は、可能であれば術前から開始することが望ましく、患者さんに周術期の栄養摂取の重要性を理解してもらうことが重要です。術前の栄養食事指導では筋肉量の維持を目的とし、栄養摂取量を確認してエネルギー・たんぱく質を十分に摂取することや、必要に応じてOral Nutritional Supplements(ONS)の摂取を提案します。また、術後食の摂取開始予定日や提供内容、摂取方法などを事前に説明しておくことで、術後の食事摂取に対する不安を軽減することができます。

術前の栄養評価では、身長・体重に加えて生体電気インピーダンス(BIA)法などを用いた体組成測定も実施できれば、低栄養やサルコペニアの評価が可能となり、術後の経過を見据えた栄養食事指導につながります。手術入院中は、食事摂取時のミールラウンドなどにより栄養摂取量を把握し、医師や看護師などと連携しながら、術後の腸管を使用した栄養摂取が順調に進んでいるかを確認します。

術後の急性期が過ぎ、たんぱく質が同化に転じた後は、エネルギー必要量25–30 kcal/kg/day、たんぱく質必要量1.0–1.5 g/kg/day5)が推奨されています。患者さんの病態や嗜好を考慮しつつ、少量高エネルギー・高たんぱく質になるように食事内容を調整し、栄養補助食品やONSを適切に活用することで、食事摂取に対する意欲を高めることも重要です。

上部消化管がんの患者さんでは、退院後に体重が減少することが多く、予後不良につながる可能性があるため、外来受診に合わせて栄養食事指導を実施することが望ましいです。退院後の外来では、食事摂取量の評価に加えて、BIA法などによる体組成測定を行うことで、体重だけでなく筋肉量の推移を確認することができます。食道がん術後で腸瘻など経口摂取以外の栄養投与ルートを有する場合は、食事摂取量に応じて経腸栄養剤を調整しながら、腸瘻抜去のタイミングを主治医と相談することも重要です。

おわりに

周術期管理チームによる多面的な介入により、食道がん術後の合併症発生率および肺炎発生率が低下することや6)、骨格筋量の減少を抑制できる可能性があること7)などが報告されています。今後もがん患者さんの高齢化が進むなかで、多職種チームによる周術期管理はさらに重要性を増し、その普及が期待されます。

参考文献

1) Bozzetti F; SCRINIO Working Group. Screening the nutritional status in oncology: a preliminary report on 1,000 outpatients. Support Care Cancer. 2009;17(3):279-84.
2) Yang Z, Zhou X, Ma B, et al. Predictive Value of Preoperative Sarcopenia in Patients with Gastric Cancer: a Meta-analysis and Systematic Review. J Gastrointest Surg. 2018;22(11):1890-1902.
3) Lawrence VA, Hazuda HP, Cornell JE, et al. Functional independence after major abdominal surgery in the elderly. J Am Coll Surg. 2004;199(5):762-72.
4) Watanabe M, Okamura A, Toihata T, et al. Recent progress in perioperative management of patients undergoing esophagectomy for esophageal cancer. Esophagus. 2018;15(3):160-164.
5) Muscaritoli M, Arends J, Bachmann P, et al. ESPEN practical guideline: Clinical Nutrition in cancer. Clin Nutr. 2021;40(5):2898-2913.
6) Watanabe M, Mine S, Nishida K, et al. Improvement in short-term outcomes after esophagectomy with a multidisciplinary perioperative care team. Esophagus. 2016;13:337–342.
7) Takahashi N, Okamura A, Ishii M, et al. Intensified outpatient nutrition management improves body weight and skeletal muscle loss after esophageal cancer surgery: a single-center, retrospective, single-arm clinical study. Langenbecks Arch Surg. 2024;409(1):333.


本記事は仲谷鈴代記念栄養改善活動振興基金の支援を受けています

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