2025/9/18公開 著者:前田圭介
臨床現場では栄養スクリーニングが一様に「栄養リスクスクリーニング」と呼ばれます。スクリーニングとは何なのかまとめました。
スクリーニングとは?
WHOの古典的定義では、見かけ上健康な者の中から未認識の疾患を推定的に同定することをスクリーニングの本質と位置づけ、その後のガイダンスにも継承されています[1,2]。1951年に開催された「慢性疾患の予防的側面に関するCCI会議」は、スクリーニングを次のように定義しました[1]。「迅速に適用し得る検査、診察、あるいはその他の手続きを用いて、未認識の疾患や欠陥を推定的に同定すること。スクリーニング検査は、一見して健常な者の中から、疾患を有する可能性が高い者と低い者とをふるい分けるものである。スクリーニング検査は、本質的に診断を目的とするものではない。陽性所見あるいは疑わしい所見を有する者は、診断と必要な治療のために、各自の医師に紹介されなければならない。」。つまり、既に存在するかもしれない疾患を持つ人を簡易的・迅速に広めに抽出することがスクリーニングといえます。
また、「スクリーニングの目的は、一見して健常な集団の中から、特定の健康問題や疾患のリスクがより高い個人を識別し、それによって早期の治療や介入を提供可能にすることにある。」[3]とされています。つまり、疾病を将来発症する可能性が高い人を抽出することもスクリーニングといえます。
スクリーニングには、「sign of disease」と「risk of disease」を抽出するという2面性があるわけです。
表1.スクリーニングツールの分類
分類 | 目的と構成 |
---|---|
Tool for sign of disease | 対象疾病を持つ可能性がある人を迅速に簡易的に抽出する。診断基準の一部(またはより感度高い基準)で構成されるものや対象疾病のサロゲートマーカーで構成されるもの。 例:嚥下スクリーニングツール(咽せなど)、甲状腺スクリーニング(TSHなど)、栄養スクリーニング(低体重など) |
Tool for risk of disease | 近い将来に対象疾病を発症する可能性がある人を抽出する。放置していると対象疾病を発症しやすい要因で構成されるもの。 例:高血圧症リスクスクリーニング(LDLコレステロール高値など)、栄養スクリーニング(食事量減少など) |
栄養スクリーニングでは
信頼性・妥当性が検証されている多くの栄養スクリーニングツールは、現在すでに生じている異常(例:低BMI、体重減少)をその判定項目に含むことがしばしばです。そういう点ではsign of malnutrition (undernutrition)をターゲットにしています。risk of malnutritionに特化した栄養スクリーニングツールは現在のところ見当たりません。しかし、下記の表のように、栄養スクリーニングツールの多くは、signとriskの両方を含んでいることがわかります。しかし、その重みはツールごとに異なっているようです。
表2.Sign of malnutritionと栄養スクリーニングツール
Screening tool 低BMI 体重減少 その他の身体的サイン(筋量・皮膚・褥瘡等) CNS (Chinese Nutrition Screening tool) (任意でBMI測定可) ✓ 体重減少 ✓ 褥瘡・皮膚炎・潰瘍 NUFFE (Nutritional Form For the Elderly) -なし ✓ 体重減少 - DETERMINE (NSI checklist) - ✓ 6か月で±10lbの体重変化 - PG-SGA-SF (Patient-Generated Subjective Global Assessment – Short Form) - ✓ 過去1か月・6か月の体重変化 - MNA-SF (Mini Nutritional Assessment – Short Form) ✓ BMI ✓ 最近の体重減少 (BMIの代用として下腿周囲長) MUST (Malnutrition Universal Screening Tool) ✓ BMI ✓ 過去3–6か月の体重減少 - MST (Malnutrition Screening Tool) - ✓ 体重減少 - NRS-2002 (Nutritional Risk Screening 2002) ✓ BMI ✓ 過去3か月の体重減少 -
表3-1.Risk of malnutritionと栄養スクリーニングツール
Tool 食欲低下 / 摂取量低下 栄養影響症状(口腔・嚥下・消化器、悪心など) CNS ✓ 食欲変化 -なし NUFFE ✓ 摂取量・食欲・飲水 ✓ 咀嚼・嚥下困難 DETERMINE ✓ “Eating poorly” ✓ 歯の喪失・口腔痛 PG-SGA-SF ✓ 摂取量低下 ✓ 悪心・嘔吐・嚥下障害・味覚変化・便通異常など MNA-SF ✓ 過去3か月の摂取減少/食欲 -なし MUST ✓ 過去5日間で疾病の影響による食事量がnone(全く食べていない) -なし MST ✓ 食欲低下 -なし NRS-2002 ✓ 摂取量低下 -なし
表3-2.Risk of malnutritionと栄養スクリーニングツール
Tool 機能低下/活動性 高齢 心理的要因 CNS ✓ 外出可否 - ✓ 心理状態 NUFFE ✓ 活動性 - ✓ 一般健康感 DETERMINE ✓ 援助必要 ✓ 80歳以上 ✓ 社会的孤立と関連 PG-SGA-SF ✓ 活動・機能 - - MNA-SF ✓ 移動性 ✓ 神経心理学的問題 ✓ 抑うつ/認知 MUST - - - MST - - - NRS-2002 - ✓ 70歳以上 -
表3-3.Risk of Malnutritionと栄養スクリーニングツール
Tool 疾患 / 炎症 薬剤 社会・経済因子 CNS ✓ 過去3か月の急性疾患 ✓ 5剤以上 ✓ 独居・食品群摂取・飲水量・介助 NUFFE - ✓ 服薬数 ✓ 食物調達・同席者など DETERMINE ✓ 疾病項目あり ✓ 3剤以上 ✓ 経済的困難・社会的接触減少 PG-SGA-SF - - - MNA-SF ✓ 心理的ストレス/急性疾患 - - MUST - - - MST - - - NRS-2002 ✓ 疾病項目あり - -
at riskとは何か
MNA-SFでは、スコアに基づき対象者を「非低栄養」「at risk of malnutrition(低栄養リスク状態)」「低栄養」の3段階に分類するします。しかし、この「at risk」とは具体的に何を意味するのか、原典やガイドラインにおいても明確な定義は提示されていません。一般的な臨床栄養の文脈においては、at riskとは「現時点で低栄養とは診断できないが、将来的に低栄養へ移行する可能性が高い状態」と解釈できます。例えば、食事摂取量の減少や食欲不振は、数週間から数か月のスパンで体重減少や筋量減少につながり、臨床的な低栄養の顕在化を引き起こす軌跡が想定されます。しかし、signとriskが混在したMNA-SFのスコアが、将来の低栄養リスクと現在の低栄養を区分できると解釈するには十分な根拠がありません。本記事内で用いる「risk(病因的・背景要因としてのリスク因子)」とは区別して扱うべき概念だと思われます。
低栄養診断のための栄養スクリーニングとは
栄養スクリーニングは、すべての対象者から効率的に低栄養患者を絞り込み、診断的評価へと進めるための第一段階の手法であると考えるのが現時点での臨床栄養の常識です。この際に最も重要なのは、低栄養の「サイン(sign of malnutrition)」を検出できるかどうかであるともいえます。体重減少やBMI低値といった表現型の異常は、既に低栄養が進行している可能性を示す指標であり、低栄養診断を容易にします。一方で、臨床現場におけるスクリーニングの目的は一様ではなく、急性期病院では短期間のリスク層別化、介護施設や地域では長期的な低栄養予防など、セッティングごとに期待される機能は異なります。したがって、利用するスクリーニングツールは、対象集団の特性と目的に即して選択されるべきだと考えられます。低栄養診断のためのスクリーニングは「サイン検出」を軸に据えつつも、場面に応じて「リスク検出」を併用する柔軟性が求められるわけです。
病院は低栄養の製造工場とも揶揄されます。入院した病態、入院後の栄養ケア不足などを的確にタイムリーにとらえる新たなRisk of malnutrition系栄養スクリーニングツール・手法の開発が望まれます。
参考文献
1.Wilson JMG, Jungner G. Principles and Practice of Screening for Disease. Geneva: World Health Organization; 1968. Available from: https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/37650/WHO_PHP_34.pdf
2.WHO Regional Office for Europe. Screening programmes: a short guide. Increase effectiveness, maximize benefits and minimize harm. Copenhagen: WHO; 2020. Available from: https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/330829/9789289054782-eng.pdf
3.Raffles A, Mackie A, Muir Gray JA. Screening: evidence and practice. 2nd ed. Oxford: Oxford University Press; 2019.