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米国の栄養ケアの質を評価する制度(GMCS, MCS)

2026.2.17

著者:前田圭介(愛知医科大学栄養治療支援センター)

栄養サポートチームの衰退と介入ギャップ

米国の栄養サポートチーム(Nutrition Support Team; NST)は、1960年代後半に経静脈栄養の安全管理を目的として誕生し、1990年前後にピークを迎えた[1]。しかし、1983年の包括支払い制度(DRG/PPS)導入を契機に財政的圧力が強まり、医師の栄養医学からの撤退と相まって、NSTは長期的な衰退の過程をたどった[1]。2022年の調査では、栄養臨床専門職の34.4%が正式なNSTに所属しておらず、財政的懸念(48.9%)が最大の障壁として報告されている[2]。一方で、栄養不良スクリーニング率は約90%と高水準にあるにもかかわらず、栄養不良と診断された患者の約30%が適切な介入を受けていないという介入ギャップが持続している[3,4]。退院時の栄養推奨が10%未満にとどまるという知見も、スクリーニングから介入への「ケアカスケード」の断絶を裏づけている[3]。

GMCSの成り立ち

こうした構造的課題に対し、2024年、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)はGlobal Malnutrition Composite Score(GMCS; CMS986)を病院入院患者質報告プログラム(Hospital Inpatient Quality Reporting Program)の質指標として採用した[5]。GMCSは、2012年のAND/ASPENによる成人栄養不良コンセンサス基準[6]と、その後のMalnutrition Quality Improvement Initiative(MQii)を経て構築された12年間の制度開発の集大成である[5]。栄養管理が連邦レベルの質指標に組み込まれたのは、これが初めてのことである。

GMCSの構成と評価方法

GMCSは、65歳以上かつ在院24時間以上の入院エピソードを対象とする電子臨床質指標(eCQM)である[7]。4つの評価項目(Measure Observation; MO)により栄養ケアの実施状況を評価する。MO1は入院時の栄養不良スクリーニング、MO2は登録栄養士(RD/RDN)による栄養アセスメント、MO3は栄養不良の診断、MO4は栄養ケアプランの策定である[7]。各項目は実施(Performed = 1)または未実施(Not Performed = 0)で二値化される。スコアリングにおいては、各入院エピソードで臨床的に要求される項目数(Eligible Occurrences)を分母とし、実施された項目数の百分率(0〜100%)として連続スコアを算出する[7]。すなわち、スクリーニングで栄養不良リスクが否定されればMO2以降は評価対象とならず、リスクのある患者ほどより多くの項目が分母に加わる設計である。

GMCSの意義と未解決の問い

GMCSの制度的意義は、栄養ケアの質を連邦レベルの報告要件として可視化した点にある。NSTの衰退期において「知識はあるが行動に移されない」というパラドックスが常態化していたなかで[3,4]、外部からの質報告インセンティブがこの介入ギャップを縮小させる可能性がある。Bechtoldらは、GMCSを「健康の公平性に焦点を当てた指標」と位置づけ、学際的な病院意思決定における栄養管理の重要性を高めることを目的としていると述べている[5]。しかし同時に、質指標の達成が正式なチーム構造を経ずに分散型のプログラムでも可能であるならば、GMCSはNSTの再活性化ではなく栄養ケアのさらなる断片化を加速させる方向にも作用し得る[1,5]。GMCSは2024年に自主的報告が開始されたばかりであり、アウトカムデータは存在しない。この制度が米国の栄養ケアにいかなる変化をもたらすかは、今後のエビデンスの蓄積に委ねられている。2026年からは対象を成人全員へ拡大し、MCS (Malnutrition Care Score)へ名称が変更され、病院の医療の質指標(Quality indicator)の一つとして運用される。

日本においても栄養ケアの質が評価される将来が予見される。


参考文献

1. Barrocas A, Schwartz DB, Bistrian BR, et al. Nutrition support teams: Institution, evolution, and innovation. Nutr Clin Pract. 2023;38(1):10-26.

2. Mundi MS, Mechanick JI, Mohamed Elfadil O, et al. Optimizing the nutrition support care model: Analysis of survey data. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2022;46(7):1709-1724.

3. Sherry CL, Sauer AC, Thrush KE. Assessment of the Nutrition Care Process in US Hospitals Using a Web-Based Tool Demonstrates the Need for Quality Improvement in Malnutrition Diagnosis and Discharge Care. Curr Dev Nutr. 2017;1(11):e001297.

4. Guenter P, Blackmer A, Malone A, et al. Current nutrition assessment practice: A 2022 survey. Nutr Clin Pract. 2023;38(5):998-1008.

5. Bechtold ML, Nepple KG, McCauley SM, et al. Interprofessional implementation of the Global Malnutrition Composite Score quality measure. Nutr Clin Pract. 2023;38(5):987-997.

6. White JV, Guenter P, Jensen G, et al. Consensus statement: Academy of Nutrition and Dietetics and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition: characteristics recommended for the identification and documentation of adult malnutrition (undernutrition). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2012;36(3):275-283.

7. Commission on Dietetic Registration. Global Malnutrition Composite Score (GMCS) Specifications Manual. July 2024. Available from: https://www.cdrnet.org/

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