公開日:2025/11/4
Key Points
| ・在宅で生活する要支援・要介護高齢者を対象に,通常歩行速度の低下とMini Nutritional Assessment Short-Form(MNA-SF)との関連を分析した. ・MNA-SFについては現行の評価方法に加え,下腿周囲長をGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)基準およびAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)基準に置き換えた評価も実施した. ・下腿周囲長を用いたMNA-SF評価では,GLIM基準およびAWGSのカットオフ値を採用することで,機能低下との関連が明確になる可能性がある. |
研究の背景と目的
在宅での支援や介護を必要とする高齢者を対象とした栄養スクリーニングツールとして,Mini Nutritional Assessment Short-Form(MNA-SF)が広く用いられています.MNA-SFでは,下腿周囲長(calf circumference:CC)の基準値が男女共通で31cmとされていますが,低栄養を診断するGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)基準では男性33cm・女性32cm,サルコペニアを評価するAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)基準では男性34cm・女性33cmと定められています.栄養不良とサルコペニアは密接に関連しているにも関わらず,CCの複数の基準値が用いられていることから臨床評価の統一が難しいという課題があります.
そこで本研究では,MNA-SFにおけるCCのカットオフ値の違いが,歩行速度の低下に及ぼす影響を検討することを目的としました.
研究の方法
デザイン:6か月間の前向きコホート研究,対面調査
対象:通所リハビリテーションを利用している,地域在住の要支援・要介護高齢者169名(男性97名,女性72名,平均年齢80.4歳)
除外基準:ベースライン時の通常歩行速度が0.42 m/秒未満の者,歩行不可な者など
調査期間:2018年9月~2024年9月 主要な評価項目:
■通常歩行速度
ベースラインとフォローアップ(6か月後)に測定
0.18m/秒以上の通常歩行速度の低下の有無で,「低下群」と「非低下群」に分類
■MNA-SF
ベースラインにMNA-SFのF項目を以下の4パターンで評価
①MNA-SF-BMI;現行のBMI
②MNA-SF-CC:現行のCCの基準値(31cm未満)
③MNA-SF-CC(GLIM);GLIM基準のCCの基準値(男性33cm・女性32cm未満)
④MNA-SF-CC(AWGS);AWGSのCCの基準値(男性34cm・女性33cm未満)
主要な結果
歩行速度の低下とMNA-SFの関連を分析
■群間比較
MNA-SF-BMI,MNA-SF-CC(GLIM),およびMNA-SF-CC(AWGS)において,歩行速度低下群では栄養不良者の割合が高かった.また,4パターンすべてのMNA-SF評価において,歩行速度低下群のMNA-SFスコアは非低下群に比べて有意に低値を示した.
■二項ロジスティック回帰分析 モデルⅠ(未調整)およびモデルⅡ(性別・年齢・Barthel Indexで調整)の両モデルにおいて,歩行速度低下群はMNA-SF-BMI,MNA-SF-CC(GLIM),およびMNA-SF-CC(AWGS)によって評価された低栄養と有意に関連していた.

結論と意義
本研究は,異なるCCのカットオフ値を用いたMNA-SFによる栄養分類が,高齢者の機能低下に及ぼす影響を初めて検討したものです.その結果,GLIM基準およびAWGSに基づくCCを用いたMNA-SF評価は,従来のカットオフ値よりも通常歩行速度の低下と強い関連を示し,BMIを用いた評価と同等の有用性を示しました.これらの結果から,GLIMおよびAWGSの基準値を採用することで,在宅高齢者の栄養状態をより正確に把握できる可能性があり,機能低下の予防や早期介入に役立つ可能性が示唆されます.
論文情報
| 掲載誌:Geriatrics & Gerontology International 論文タイトル:Optimal Calf Circumference Cutoff Values in the Mini Nutritional Assessment Short-Form Based on Usual Walking Speed Decline in Older Adults Requiring Long-Term Care/Support 著者名:Yohei Sawaya, Tamaki Hirose, Takahiro Shiba, Ryo Sato, Lu Yin, Shuntaro Tsuji, Tomohiko Urano DOI:https://doi.org/10.1111/ggi.70193 |
著者紹介
| 沢谷洋平 2009年 秋田大学医学部保健学科 理学療法学専攻卒業 2009年 市立室蘭総合病院リハビリテーション科 2013年 青年海外協力隊(職種:理学療法士)タンザニア連合共和国 ムナジモジャ病院 2015年 マロニエ苑通所リハビリテーション にしなすの総合在宅ケアセンター 2019年~ 国際医療福祉大学保健医療学部 理学療法学科 関連ページ:リサーチマップ https://researchmap.jp/tanzania |
問い合わせ・取材申し込み先
| 国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科 沢谷洋平 E-mail: sawaya 電話: 0287-24-3018 |
