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食欲に影響する薬

2025.7.21

2025/7/21公開 著者:愛知医科大学病院 薬剤部 山本絵理子
第208回愛知医科大学病院NST勉強会 講演アーカイブ

食欲に影響する薬:知っておきたい5つのポイント
多くの薬が食欲不振を引き起こす可能性があり、低栄養や入院期間延長のリスクを高めます。
• 薬による食欲不振は、口腔・嚥下、消化器、精神神経系など多岐にわたるメカニズムで発生します
食欲不振の原因となっている薬の特定が重要です。休薬・減量・変更を検討しましょう。
• 薬剤師は薬の副作用特定を助ける専門家です。症状出現時期で原因薬を探しやすくなります
食欲不振とは食物を摂取したいという生理的な欲求が低下や喪失している状態です。
食欲低下や食事不振ともいいます。食欲低下が続くと食事の摂取量が減り、必要な栄養素が不足することで、低栄養状態になるリスクが高まります。
低栄養状態は、入院期間の延長や合併症・死亡率の増加につながるため、食欲不振には適切に対応することが必要です。

入院患者などで食欲が低下している場合は、その原因を検討することが重要です。
食欲不振の原因は、消化器症状などの身体的なもの、うつ状態などの精神的なもの、食事を用意できないなどの社会的なものなどさまざまですが、薬剤の副作用によるものも含まれます。
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食欲不振の原因は多岐にわたりますが、高齢者における食欲低下や体重減少の鑑別に役立つ語呂合わせとして「MEALS ON WHEELS」がよく知られています。
これは各頭文字が原因の手がかりを示しており、最初に挙げられるのが「Medication(薬剤性)」です。
ただし、この語呂合わせは英語が不得意な方にとっては覚えにくいかもしれません。

英語が苦手な方には、日本語版の語呂合わせもあります。
これは愛知医科大学病院、栄養治療支援センターの前田先生が考案されたもので、太字の部分が各要因の頭文字となります。

「新悪役職人殿、社会の内戦に疲れ、パイ食し、正味8回、焼酎口移したい」となっています。

この語呂合わせにも、「薬剤」が含まれています。
先ほどのMEALS ON WHEELSには含まれていない「痛み」や「発熱」などの要素も入っているのが特徴です。

今日は「薬による食欲不振」について考えます。

薬には本来の目的に沿った好ましい作用があり、それが狙った臓器で働くことで効果を発揮します。
一方で、目的とは異なる好ましくない作用が、意図しない臓器に影響すると「副作用」になります。
薬の副作用が原因で食欲不振を引き起こす場合があります。
薬剤性の食欲不振を疑ったら、その症状の原因となっている薬剤がどれかを特定することが必要となります。

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我々薬剤師は薬の副作用を疑ったとき、まずは添付文書で情報を確認することがよくあります。

それでは添付文書で副作用を調べるとどうなるのでしょうか。

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これは胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプインヒビターの添付文書に記載されている副作用です。

食欲不振や食欲低下、食種不振といった単語はありません。
ですが腹痛、下痢、嘔吐、口内炎、不眠症、うつ病といった食欲を低下させそうな副作用が記載されています。

複数の薬を服用している場合、添付文書に記載されている副作用情報だけでは、食欲不振の原因となっている薬を特定するのは難しいことがあります。
そのため、他の視点やアプローチを用いて評価することが必要です。

薬剤性の食欲不振を疑ったときに評価すべきポイントです。

食べ物の取り入れや飲み込みなどに影響する口腔嚥下問題、吐き気や下痢・便秘などの消化器系の異常、食べ物を食べ物として認識する認知機能や意識レベルなどの精神神経系、食べる姿勢の保持などの耐久性や持続性、これらの4つに分類しています。

口腔嚥下問題を、こちらの5つのポイントに分けて評価します。

まずは口腔乾燥、唾液分泌、味覚障害の3つについてです。

このスライドでは、口腔乾燥・唾液分泌低下・味覚障害に影響を与える可能性がある代表的な医薬品を紹介しています。

ただし、ここに記載されている薬剤は一部であり、記載されていないものが影響を及ぼさないというわけではありません。
抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗ヒスタミン薬については後のスライドで説明します。フロセミドなどの利尿薬は、体の水分が体外に排泄されて脱水を招き、唾液の分泌量が減る可能性があります。
また、甲状腺機能を抑制するチアマゾールや、テトラサイクリン系・キノロン系の一部の抗菌薬は味蕾や味覚神経に直接作用することで、味覚異常を引き起こすことがあります。

アセチルコリンが受容体に結合して副交感神経を刺激すると、唾液の分泌が促進されます。

一方で、アセチルコリンの作用を妨げる「抗コリン作用」をもつ薬剤を使用すると、唾液の分泌が抑制され、口腔内が乾燥することがあります。
抗コリン作用による唾液分泌低下を引き起こす可能性が高い薬として、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗ヒスタミン薬などがあげられます。

味覚障害を引き起こす要因にはさまざまなものがありますが、代表的なものとして「口腔乾燥・唾液分泌の低下」および「亜鉛欠乏」があげられます。

薬剤が原因となる味覚障害では、口腔乾燥や亜鉛欠乏に影響するものが比較的多く見られます。
それ以外にも、味蕾細胞に対する直接的な毒性作用など、別のメカニズムによって引き起こされるケースもあります。

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唾液分泌低下と味覚障害の関係についてです。味覚を感じるには、食べ物に含まれる味の成分(味物質)が舌の味蕾に届く必要があります。
これらの味物質は唾液に溶けることで味蕾に運ばれるため、唾液の分泌量は味覚の感知にとって重要です。
唾液の分泌が低下すると、味物質がうまく味蕾まで届かず、味を感じにくくなることがあります。図では「塩味」を例に挙げていますが、甘味などの他の味でも同様です。
抗精神病薬や抗ヒスタミン薬などの抗コリン作用をもつ薬剤、利尿薬などは唾液の分泌量を減らす作用があり、結果として味覚障害を引き起こす可能性があります。

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次は亜鉛欠乏についてです。
味覚は、舌にある味蕾の中の味細胞によって感知されます。
味細胞の寿命は約10〜14日と短く、常に新しい細胞へと生まれ変わっています。
これを「ターンオーバー」と呼びます。

亜鉛は、味細胞のターンオーバーを支える重要なミネラルです。しかし、抗菌薬や抗甲状腺薬の一部には、亜鉛と「キレート」を形成する性質があります。
キレートが形成されると、亜鉛は体外に排出されやすくなり、結果として亜鉛欠乏となり、ターンオーバーが遅延し、味覚障害が生じます。

薬剤性味覚障害への対応についてです。
原因となる薬剤がある場合には中止や減量を検討します。
口腔内の乾燥がある場合には、保湿ケアなどの口腔衛生の管理も重要です。
また、亜鉛欠乏が疑われる場合は、亜鉛補充療法として「ノベルジン」などの亜鉛製剤を用いることができます。

次は嚥下のスムーズさについてです。

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摂食嚥下運動は5つの期に分けることができます。
先行期は食物を認識して口に運び込むまでの過程。
準備期は食物を咀嚼して嚥下しやすい状態にする過程。
口腔期は嚥下飲み込みが開始されて、食塊を咽頭へ送り込む過程。
咽頭期は咽頭から食道へ食塊を送り込む過程。
食道期は食塊が食道蠕動運動によって胃へ運ばれる過程。
この5期のいずれかに障害が生じると摂食嚥下運動はスムーズでなくなります。各期に悪影響を及ぼす薬は、薬剤性の嚥下障害を引き起こす可能性があります。

嚥下障害を評価するときのポイントです。

摂食嚥下障害を起こしやすい医薬品として、代表的なものをスライドに示しています。

コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA阻害薬は、アルツハイマーの治療に使われる薬です。

抗精神病薬の中には、錐体外路障害を引き起こすものがあります。

錐体外路障害とは上肢の筋肉が突っ張ってしまう急性ジストニア、筋が硬直してしまうパーキンソニズム、舌や口唇下顎の不随意運動が起こる遅発性ジストニアなどの運動機能に関連した症状です。
これらの症状は、嚥下運動に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、ドパミン抑制作用を持つ薬は、「サブスタンスP」の合成が低下し、嚥下反射・咳嗽反射が低下するリスクがあります。
これらの作用から、抗精神病薬は薬剤性の嚥下障害を起こす可能性があるため注意が必要です。

抗てんかん薬は、脳の神経細胞の過剰な興奮を抑えるために使用されます。

しかし、作用が過剰になると意識レベルが低下し、それに伴い嚥下機能も低下する可能性があります。
アルツハイマー治療薬には、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA阻害薬があります。
これらの薬剤には嚥下障害やジスキネジーなどの有害事象の報告があります。
特にコリンエステラーゼ阻害薬は、唾液の量が過剰となり誤嚥のリスクを高める可能性があります。

口腔/嚥下問題のまとめです。

抗コリン作用のある薬に注意が必要です。
これには抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗ヒスタミン薬などがあり、口腔乾燥や唾液分泌の低下を引き起こすことがあります。
嚥下障害を起こす薬にも注意が必要です。

このスライドには抗精神病薬だけを記載していますが、アルツハイマー治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬)も嚥下機能に影響を及ぼす可能性があります。

次は消化器系の異常についてです。

消化器系の異常とは、吐き気、便秘や下痢、腹痛、消化管潰瘍などです。

消化器系異常が起きる可能性がある医薬品例をスライドに示しています。

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抗腫瘍薬による消化器系異常には吐き気と下痢があります。
吐き気が起こるメカニズムは末梢性と中枢性があります。
末梢性の吐き気では、抗腫瘍薬により胃腸がダメージを受けるとセロトニンが放出されます。このセロトニンが5-HT3受容体を刺激し、迷走神経を介して嘔吐中枢(VC)に情報が伝わり、吐き気を生じます。
中枢性の吐き気では、抗腫瘍薬が血液を通じて 化学受容器引金帯(CTZ)に達し、CTZにあるD2受容体や5-HT3受容体、NK1受容体が刺激され、嘔吐中枢が活性化されて吐き気を生じます。
抗がん剤は腸粘膜を障害する作用もあり、それによって水分や電解質の吸収が不十分となり、下痢の原因になります。
また、イリノテカンという抗腫瘍薬は腸管の蠕動運動を亢進させることで、重度の下痢を引き起こすことがあります。

催吐性リスクとは、患者に吐き気や嘔吐が起こる頻度の評価指標で、4段階に分類されています。
高度催吐性薬剤では何も対策をしないと、90%以上の人が嘔吐するとされています。
催吐性リスクに応じた予防的制吐療法が制吐剤適正使用ガイドラインで推奨されています。
高度リスクではNK1受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾン、オランザピンの4剤併用。
中等度リスク群ではNK1受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬の2剤、一部の薬剤ではこれにオランザピンを加えた3剤。
低リスクではデキサメタゾン単剤または5-HT3受容体拮抗薬単剤を使用。
最小度リスクでは原則制吐剤不要です。
催吐性リスクの分類に基づいて、適切な制吐剤を投与することで、吐き気や嘔吐の予防をすることが重要です。
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オピオイドやμ受容体刺激薬でも吐き気が生じることがあります。吐き気のメカニズムは主に3つあります。
薬剤が血流を介してCTZを刺激し、嘔吐中枢に信号が送られて吐き気が生じる中枢性。
内耳の前庭系に影響を与え、平衡感覚が乱れることで嘔吐中枢を刺激され、車酔いに似たような似た吐き気が生じる前庭系。
消化管の蠕動運動を抑制することで、胃内の停滞感や膨満感が生じ、これが吐き気を起こす消化管の影響。
また、蠕動運動の抑制によって、便秘も起こりやすくなります。

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アセチルコリンが受容体に作用すると胃腸の蠕動運動は促進されます。
しかし、抗コリン作用をもつ薬剤を使うと、蠕動運動が抑えられ、消化管内容物が停滞しやすくなり、胃もたれや吐き気、便秘などの症状が現れることがあります。

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アルツハイマー型認知症の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬についてです。
コリンエステラーゼとは、アセチルコリンを分解する酵素です。
この酵素を阻害することで、アセチルコリンが分解されなくなり、アセチルコリンの量が増えて、その作用が強くなります。

アセチルコリンの作用が強くなると、副交感神経が刺激され胃腸の蠕動運動は活発になります。
しかし、作用が過剰になると下痢や腹痛などの消化器症状が現れることがあります。

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SSRIは選択的セロトニン再取り込み阻害薬といい、うつ病や不安障害の治療に使用されます。

セロトニンは神経と神経のつなぎ目であるシナプス間隙に放出され、受容体に結合して作用します。
その後不要となったセロトニンは神経細胞に再吸収されます。これを再取り込みといいます。
SSRIはセロトニンの再取り込みを阻害することで、シナプス間隙のセロトニンの量を増やす作用があります。
増加したセロトニンが嘔吐中枢にある5-HT3受容体を刺激し、吐き気が起こります。さらに腸管にある5-HT3受容体も刺激され、腸の過活動や吐き気につながります。
これらの胃腸症状は、投与初期に起こりやすいとされていますが、通常は数日から1-2週間で慣れることが多いと言われています。

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NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、ロキソプロフェンやジクロフェナクなどの、痛みや炎症を和らげるために使用される薬剤です。

これらは「シクロオキシゲナーゼ(COX)」という酵素を阻害することで効果を発揮します。
プロスタグランジンは、痛み・熱・炎症のほか、胃粘膜保護や血小板凝集などにも関与する生理活性物質です。
NSAIDs がCOX-2を阻害すると、痛みや炎症に関係するプロスタグランジンの産生が減少し、痛みや炎症が抑えられます。
しかし、NSAIDs はCOX-1も阻害してしまい、胃粘膜保護に関わるプロスタグランジンも減少するため、胃粘膜障害が起こりやすくなります。
セレコキシブのようなCOX-2選択的NSAIDsではCOX-1への作用を抑えることで胃への影響が少ないとされています。

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腸内には、善玉菌も悪玉菌など多種多様な腸内細菌が共存しています。

抗菌薬を投与すると腸内の常在菌にも影響を与え、善玉菌が減少して腸内細菌のバランスが崩れることがあります。
その結果、腸内環境が乱れ、下痢などの消化器症状が起きることがあります。
このような腸内細菌叢の乱れによる下痢には、整腸剤の使用が有効とされています。

消化器系異常に関するまとめです。

嘔気を起こす薬には注意が必要です。
抗悪性腫瘍薬やオピオイドは、治療上、減量や中止が難しいことが多いため、適切な吐き気止めを使用して嘔気を防ぐことが重要です。
抗コリン作用のある薬は、口腔・嚥下機能に影響を及ぼすだけでなく消化器系にも悪影響を与える可能性があるので注意が必要です。

食物認知、精神神経についてです。
食物認知、精神・神経でチェックすべき症状です。
食物認知、精神・神経に影響を及ぼす可能性がある医薬品例です。

H2受容体拮抗薬、PPI、P-cabは、胃酸の分泌を抑える目的で使用される薬です。
これらが精神・神経に影響を及ぼす可能性があるのは、意外に思われる方もいるかもしれません。

抗精神病薬や抗不安薬は過度に作用すると、眠気が強くなったり、認知機能が低下する可能性があります。

注意力が低下すると、食事に集中できなくなり食事時間が長くなることで疲労が蓄積し、結果として食事摂取量の低下につながるという悪循環に陥る可能性があります。
また、せん妄が生じると摂食行動にさらなる影響を及ぼします。
せん妄とは、急性に起こる意識や注意の障害で、時間帯によって症状が変動し、混乱・幻覚・錯覚・興奮・傾眠などが見られる状態です。

せん妄によって日内リズムが崩れ昼夜逆転が起こることで、食事摂取量が低下することがあります。
興奮・混乱・幻覚などの精神症状も、食事への集中や摂取を妨げる要因となります。

食物認知、精神・神経に関するまとめです。

せん妄を引き起こす薬剤には注意が必要です。
せん妄を引き起こす可能性のある薬剤として、H2受容体拮抗薬、PPI、P-cab、オピオイド、ステロイドなどがあります。

耐久性/持続性についてです。

耐久性/持続性に影響する可能性のある薬剤の例です。

向精神薬や筋弛緩薬は、中枢神経系を鎮静させるため、眠気や筋力低下を起こすことがあります。
活動量の低下、筋緊張の減少により耐久性の低下につながる可能性があります。
甲状腺機能が低下すると、代謝低下により倦怠感が現れ、持久力がなくなります。

逆に甲状腺機能が亢進すると、動悸や過剰な代謝亢進により疲れやすくなります。
α1受容体作動薬は起立性低血圧や血圧変動により立ちくらみや疲労を引き起こす場合があります。
錐体外路症状を引き起こす薬剤は、筋固縮やジストニア、不随意運動などが現れ、スムーズな動作を失わせ、食事や姿勢保持の持久力を低下させることがあります。

薬剤性食欲不振が疑われた場合、食欲不振につながる症状、その症状が出現した時期を確認すると、原因となる薬剤を探しやすくなります。

被疑薬が判明したら、休薬や減量、作用の類似した他剤への変更を検討し、その後に症状を緩和する薬剤の投与を検討します。
薬剤の副作用としての食欲不振の可能性を考えずに、安易に対症療法として他の薬剤を追加すると、ポリファーマシーにつながる可能性があるため注意が必要です。

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ここまでは食欲不振についての話でした。

それでは、食欲を改善する薬はあるのでしょうか?

このスライドはESPENによる「がん患者の栄養に関するガイドライン」から、低栄養状態への対応として推奨されている薬剤を抜粋したものです。

コルチコステロイドは強力な抗炎症を持ち、食欲不振や全身倦怠感の改善に有効とされています。

ただし、食欲改善効果は1ヶ月以内に消失することが多く、長期使用により副作用が高率で発現するため、漫然と使うべきではありません。
メトクロプラミドやドンペリドンは胃腸の運動を促進します。
食事開始直後に満腹感を感じてしまう「早期膨満感」の改善に用いられます。
ただし、錐体外路症状などの中枢神経系副作用、QT延長のような心電図への悪影響などの副作用症状に注意が必要です。

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先ほどご紹介したガイドラインには記載されていませんが、最近、がん悪液質に使われる薬剤が登場しています。その薬剤にも少し触れていきたいと思います。
がん悪液質というのは、がんが進行した患者さんにみられる合併症の1つです。QOLや生命予後に大きく影響します。
がんの悪液質は、「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。骨格筋の合成と分解のバランスが負に傾き、安静時のエネルギー消費が亢進する点が、通常の飢餓とは異なります。
EPCRC基準では、前悪液質、悪液質、不可逆的悪液質の3段階に分類されています。半年間で5%以上の体重減少、BMIが20未満+半年間で2%以上の体重減少、もしくはサルコペニア+半年間で2%以上の体重減少のいずれかがあると悪液質として判断されます。進行すると不可逆的な状態になるため、早期の介入が重要です。
がん悪液質に対する薬として、アナモレリンが2021年に日本で薬価収載されました。アナモレリンはグレリン受容体に作用します。成長ホルモンの分泌を促進することで、骨格筋の合成も促進されます。また、視床下部に働くことで食欲を増やす可能性があります
これらの作用により、がん悪液質に伴う筋量減少や食欲低下の改善が期待されています

アナモレリン使用時のポイントです。
導入は早期からが望ましいとされています。症状が進行する前から介入することが重要です。
薬物療法だけでなく、運動療法や栄養療法の併用が大切です。
食欲改善効果は、コルチコステロイドは1ヶ月以内に焼失すると言われていますが、アナモレリンは3~6ヶ月程度の継続効果が期待されており、より長期的な使用に適しています。
本日のまとめです。

食欲に影響する薬というのは、思っているよりもずっと多く存在します。
その中で、どの薬が原因となっているのかを見極めるためには、どのような症状が、いつから起きているのかを確認することが重要です。
食欲不振につながる症状があったとしても、すぐにその症状を緩和するための薬を追加するのではなく、まずは不要な薬がないかを見直すことが大切です。安易な薬剤追加は、ポリファーマシーの一因にもなりかねません。
病院には薬剤師がいます。「この症状、薬の影響かもしれない」と思ったときは、薬剤師に気軽に相談してみてください。
以上で話を終わります。ご清聴ありがとうございました。

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