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GLIM基準における表現型項目のカットオフ値

2025.6.18

2025/6/18公開 著者: 前田圭介
2025/6/20 update

GLIM基準が日本の診療報酬・介護報酬体系に導入されました。

しかし、実臨床で応用しやすい明確な基準(カットオフ値)がよくわからないという声を多く聞きます。
この記事では、GLIM基準を用いた低栄養診断および重症度判定に用いることが妥当な、評価方法とカットオフ値について概説します。

(根拠のあるカットオフ値を見出す臨床研究がOn goingで行われていますので、重要な情報は都度アップデートいたします)

GLIM基準の全体像

表現型病因11Cederholm T, et al. Clin Nutr. 20181.摂取量不足or 消化吸収不良2. 疾患の負荷炎症GLIM基準スクリーニングアセスメントAt risk1.体重減少2.BMI3.低筋肉量重症度表現型3項目重症基準1.体重減少2.BMI3.低筋肉量診断

すでに記事に記載しましたように、GLIM基準を用いた低栄養診断・重症度判定は上記のような構造になっています。

1.対象患者全員に対し栄養スクリーニング
2.スクリーニング陽性者に診断のためのアセスメント
  表現型3項目を評価
  病因2項目を評価
3.表現型と病因それぞれで1つ以上異常を認めるときに、低栄養と「診断」
4.低栄養と診断されたら、表現型3項目を用いて重症度判定
  重症度は中等度低栄養または重度低栄養のどちらかに判定

表現型項目のカットオフ値

表現型の項目は、体重減少率、低BMI、低筋肉量の3項目です。
体重減少率と低BMIは評価方法にバリエーションがありませんので、異常と判断するカットオフ値の理解にあまり困難はなさそうです。

表現型項目異常のカットオフ値
体重減少率6か月間で5%を超える意図しない体重減少
または、
期間を問わない10%を超える意図しない体重減少
低BMI70歳未満の場合: < 18.5 kg/m2
70歳以上の場合: < 20.0 kg/m2

筋肉量減少は評価方法が多様です。
GLIMは公式に以下のような筋量評価手法のアルゴリズムを提案しています。

BarazzoniR, et al. Clin Nutr. 2022 :S02615614(22)000449.GLIMで筋肉量評価機器測定BIADXACTUS使える?カットオフ値知ってる?ベッドサイド評価身体計測身体診察CC, MUACCN Expert浮腫(補正必要)肥満(補正必要)ASMI, FFMIGLIM推奨値M<33cm, F<32cm

機器で筋量測定ができる(機器がある・カットオフ値を知っている・実施できる)場合
 生体インピーダンス(BIA)法(Inbody等)を用いて、除脂肪量指数(FFMI)や四肢骨格筋指数(ASMI)を算出し判断する
 DXA機器を用いて、FFMIやASMIを算出し判断する
 CT画像を用いて骨格筋指数等の妥当な値を用いて判断する
 超音波検査で妥当な値を用いて判断する

機器測定ができない場合
 ベッドサイド評価として、身体計測(Anthropometry)または身体診察(Physical Examination)で評価判断する

身体計測(Anthropometry)
 下腿周囲長または上腕周囲長を用いることがすすめられる
 下腿周囲長の場合、男性 < 33 cm、女性 < 32 cmを異常(筋肉量減少)と判断することができる

身体診察(Physical Examination)
 臨床栄養に精通した専門家が多様な部位(側頭、首、鎖骨、肩、肩甲骨、大腿、下腿など)を触診し、筋肉量減少を判断することができる

表現型項目手法異常判定カットオフ値
筋肉量減少BIA (ASMI)AWGS基準を参照に
 男性: < 7.0 kg/m2
 女性: < 5.7 kg/m2
筋肉量減少DXA (ASMI)AWGS基準を参照に
 男性: < 7.0 kg/m2
 女性: < 5.4 kg/m2
筋肉量減少下腿周囲長GLIM公式アナウンスを参照に
 男性: < 33 cm
 女性: < 32 cm
筋肉量減少FFMI(除脂肪量指数)日本人で検証済み#1
 男性: < 17.5 kg/m2
 女性: < 14.4 kg/m2
日本人に最適・妥当なカットオフ値として知られているカットオフ値を用いることをおすすめします
#1 Takagi S, Maeda K, et al. Fat-Free Mass Index cut-off values for reduced muscle mass in older community-dwelling adults in Japan: A descriptive cohort study. JPEN 2025.

下腿周囲長を用いるときの浮腫および肥満の補正

下腿周囲長は身体計測のなかで最も筋肉量と相関する測定値であることが知られています。
しかし、浮腫と肥満の補正が必要な指標でもあります。
日本人を対象とした研究から、下腿の浮腫がある場合の補正方法(実測値から引く値)が提唱されています。
また、米国の大規模コホートデータから、肥満の状況(BMIに基づく)によって、下腿周囲長の補正方法(実測値から引く値)が提唱されています。

下腿周囲長の補正は以下の図を参考にするとよさそうです。

CCの補正法PradoNHANES 2NHANES 1BMI0 cm3 cm4 cm<18.50 cm0 cm0 cm≥18.5, <25.03 cm4 cm3 cm≥25.0, <307 cm7 cm7 cm≥30.0, <4012 cm12 cm12 cm≥400 cm4 cm4 cm<18.50 cm0 cm0 cm≥18.5, <25.03 cm3 cm3 cm≥25.0, <307 cm7 cm7 cm≥30.0, <4012 cm11 cm12 cm≥40Ishida Y, et al. Nutr Clin Pract. 2025Ishida Y, et al. Geriatr Gerontol Int. 2019測定値CC2.0cm ()1.6cm ()浮腫の補正法

下腿浮腫がある人の補正
 男性: 実測下腿周囲長 ー 2.0cm
 女性: 実測下腿周囲長 ー 1.6cm

肥満の補正
 上図のPrado列を参考に
 BMI ≧ 25.0, < 30: 実測下腿周囲長 ー 3cm
 BMI ≧ 30.0, < 40: 実測下腿周囲長 ー 7cm
 BMI ≧ 40: 実測下腿周囲長 ー 12cm

重症度判定のカットオフ値

低栄養と診断された人は、低栄養の重症度判定を行います。
重症度判定は表現型項目(体重減少、低BMI、低筋肉量)で判断します。

Cederholm T, et al. Clin Nutr. 2018重症度表現型項目を使用>10%/6Mor> 20%<70y< 17.0≥70y< 17.8?重度減少Maeda K, et al. Clin Nutr. 2020Proposed by GLIM重症度分類診断BMI低筋肉量体重減少

中等度低栄養: 重度低栄養基準に該当しない人
重度低栄養: (1項目でも)重度低栄養基準に該当する人

表現型項目手法重度低栄養判定のカットオフ値
体重減少率6か月間で10%を超える意図しない体重減少
または、
期間を問わない20%を超える意図しない体重減少
低BMI70歳未満の場合: < 17.0 kg/m2
70歳以上の場合: < 17.8 kg/m2
低筋肉量下腿周囲長男性: < 29.8 cm
女性: < 28.2 cm
(ただし、低筋量の判定を男性 <33cm, 女性 <32cmとした場合)
低筋肉量下腿周囲長男性: < 27.0 cm
女性: < 26.0 cm
(ただし、低筋量の判定を男性 <30cm, 女性 <29cmとした場合)
低筋肉量FFMI重度筋量減少を判断できる日本人向けカットオフ値は報告されていない
低筋肉量BIA(ASMI)重度筋量減少を判断できる日本人向けカットオフ値は報告されていない
低筋肉量DXA(ASMI)重度筋量減少を判断できる日本人向けカットオフ値は報告されていない
低筋肉量その他課題CT、エコー、上腕周囲長などで重度筋量減少を判断できる日本人向けカットオフ値は報告されていない
参考:
(低BMIカットオフ値)Maeda K, et al. Reference body mass index values and the prevalence of malnutrition according to the Global Leadership Initiative on Malnutrition criteria. Clinical Nutrition. 2020;39(1):180–184.
(低CCカットオフ値)Ishida Y, et al. Assessing mortality and malnutrition using calf circumference adjusted for body mass index and edema as muscle mass reduction indicators within the Global Leadership Initiative on Malnutrition criteria: A retrospective study. Nutr Clin Pract. 2025 May 14. doi: 10.1002/ncp.11316.
(低CCカットオフ値)Mori N, et al. Prognostic implications of the global leadership initiative on malnutrition criteria as a routine assessment modality for malnutrition in hospitalized patients at a university hospital. Clin Nutr. 2023 Feb;42(2):166-172.

最後に

GLIM基準は、国際的な合意に基づいて策定された低栄養診断の枠組みであり、日本の診療報酬・介護報酬体系にも導入されました。高齢者を含む多様な患者群に対して、その臨床的意義は極めて高いものです。

しかしながら、実際の現場では、どのような手法で、どのカットオフ値を用いて評価すべきかが明確でないという声が少なくありません。特に筋肉量評価における多様な手法と補正の必要性は、実地診療における運用を複雑にしています。

本記事では、GLIM基準に基づいた診断と重症度評価のプロセス、および現時点で妥当とされるカットオフ値を網羅的に解説しました。特に下腿周囲長の補正値や、BIA・DXA・FFMI・ASMIといった評価手法の選択基準と限界についても触れました。

GLIM基準に関する科学的根拠は、今まさに蓄積されつつあります。日本人に特化した評価方法やカットオフ値に関する研究は現在進行中であり、新たな知見が得られ次第、随時情報を更新してまいります。

臨床現場で本基準をより安全かつ有効に活用していただく一助となれば幸いです。今後とも、エビデンスに基づいた診療の実践と、そのための情報提供に努めてまいります。

記事更新歴

2025/6/20 低筋量をFFMIで判断するカットオフ値の根拠となる研究論文について追記しました

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