公開日 2025/04/02
Key Points
・若年成人でSARC-Fと死亡リスクが関連していることが明らかになった ・死亡を予測するSARC-Fスコアは1以上 ・若年成人に対するサルコペニアに関して、今後の医療現場での実践的なアプローチに貢献 |
研究の概要
近年、サルコペニアは高齢者だけでなく、若年成人にも影響を及ぼすことが認識されています。これに関連する新たな研究が愛知医科大学病院で行われました。
本研究は、若年成人(65歳未満)の入院患者におけるSARC-F(サルコペニアを評価するための簡易スクリーニングツール)と死亡リスクとの関連を調査しました。サルコペニアを示唆するSARC-Fのスコアが高い患者ほど、死亡リスクが有意に高いことが明らかになりました。具体的なスコアとしては、入院時のSARC-Fスコアが1以上であることが、死亡リスクを予測する値であることが示されました。このことから、若年成人における早期のサルコペニアスクリーニングと介入の重要性が確認されました。
研究の方法
本研究は、2019年4月から2021年3月にかけて愛知医科大学病院に入院した12,743名の患者を対象とした大規模な後ろ向きコホート研究です。研究が行われた大学病院では,日常診療の一つとして、病棟の看護師が入院患者に対して入院時ただちにSARC-Fの項目をルーティンに聞き取り,診療録に記録しています。SARC-Fは、身体的機能に関する5つの質問を基にスコアを算出します。具体的には、「持ち上げる能力」、「歩行能力」、「立ち上がり能力」、「階段昇降能力」、「転倒歴」に関する質問です。これにより、短時間でサルコペニアのリスクを評価することができます。(図1)(石田優利亜. (2025年3月29日). 「SARCFの歴史と日本語版SARCF」[コラム].老年栄養ドットコム https://geriatrics.jp/muscle-health-sarcopenia/sarc-fの歴史と日本語版sarc-f/)
図1 SARC-F日本語版

主要な結果
死亡(院内死亡および退院後の死亡を含む)および院内死亡のいずれにおいても高いArea Under the Curve (AUC)を示し、それぞれ0.721 [0.678–0.764] (p<0.001) および 0.805 [0.749–0.861] (p<0.001) という結果が得られました。さらに、SARC-Fスコアの感度と特異度の和が最も高くなるカットオフ値は、観察期間内死亡・院内死亡ともに「1」となりました(図2)。具体的に、SARC-F=1 の場合の感度/特異度は、観察期間内死亡で0.545/0.847、院内死亡で0.716/0.844でした。この結果は、SARC-Fスコアが低くても死亡リスクが高まる可能性を示唆しており、早期介入の重要性を強調するものです。
図2 死亡に対するSARC-FのROC分析

結論と意義
サルコペニアは、高齢者集団で注目されてきました。しかし、この研究では、若年成人においてもサルコペニアのスクリーニングツールであるSARC-Fが死亡リスクと有意に関連していることを示しました。サルコペニアを早期に発見し、介入することは、若年成人の健康改善に貢献する可能性が高いです。
本研究は、若年成人におけるサルコペニアの早期発見と介入の重要性を認識させるものであり、今後の医療現場での実践的なアプローチに大きな影響を与えると考えられます。さらに、今後はコミュニティや他の医療機関においても、この方法の有効性を検証し、広く活用することが求められます。
論文情報
掲載誌:Nutrition in Clinical Practice
論文タイトル:SARC-F questionnaire and its predictive value for mortality risk in hospitalized younger adults: A retrospective study
著者名:Yuria Ishida, Keisuke Maeda, Akio Shimizu, Junko Ueshima, Ayano Nagano, Tatsuro Inoue, Tomoyuki Nonogaki, Koki Kawamura, Tatsuma Sakaguchi, Naoharu Mori
DOI:10.1002/ncp.11284
著者紹介
石田優利亜(Yuria ISHIDA).
2015年に金城学院大学(愛知県)を卒業後,医療機関で管理栄養士として勤務
2017年に愛知医科大学病院栄養部に入職
問い合わせ・取材申し込み先
愛知医科大学病院 栄養部
石田優利亜
Tel: 0561-62-3311(代表)
Email: okuda.yuriaaichi-med-u.ac.jp